当初は親族内承継のつもりだったのに、あることがきっかけとなり親族内承継を断念し、M&Aへ。そんなケースについての対策を過去の経験からお話ししてみます。これを読んで、思い当たるふしが1つでもあるようならば将来トラブルに発展する恐れもあります。その前に早めの対策をお勧めします。 

取締役・株主総会を開いていない

ケース1 会社の株式を私(父親)が80%、長男と長女が株式を10%ずつ持っています。最近、長男と長女の折り合いが悪く、現在会社を手伝っているのは長男のみです。役員は家族のみなので、取締役会や株主総会は開いていません。 

株式会社では取締役の選任は株主総会の決議で決めるとされています。すべての株主が仲が良い状態であれば問題はないのですが、本ケースのようになってしまうとトラブル発生は必須と考えておいたほうが良いと思われます。

早めに取締役会と株主総会を開催し、長女からの株式買取りを行い、将来の訴訟リスクを排除しておくことが社長として、また親としての役割です。

未払いの残業代があった

ケース2 亡くなった父親の会社を引き継いだ直後、従業員から「これまで残業代が払われていなかったので全額払って欲しい」と言われました。 

「未払い残業代問題」は昨今の事業承継の場面において高確率で出てくる事象の一つです。結論としては従業員の言っていることが正しいケースが多く、使用者側としては常日頃から万全の体制をとっておくべきです。就業規則の見直し、賃金台帳の有無、給料計算根拠の明文化は今すぐ行って下さい。M&Aの場合でもこの点は必ずフォーカスされます。

会社の敷地は個人名義だった

ケース3 会社の財産と個人の財産が区別されていない。 

会社の工場や事務所などの建物が法人名義で、そこの敷地(土地)が個人名義というケース。相続となると厄介です。建物を所有する会社の株式価値が高いとケースによっては、事業を承継する相続人が株式をすべて相続し、他の相続人が土地を相続するということも十分あり得ます。

対策としては、生前贈与、土地を会社名義とする方法、遺言書の作成、の順番で検討していくことが良いと思います。法律が絡んできますので弁護士と相談しながら進めていくのが得策です。

遺留分の侵害に注意を

ケース4 会社の後継者1人のみに全財産を渡すという遺言書を書く。

本ケースの場合は、他の相続人の遺留分を侵害しており、遺留分滅殺請求を受けることになります。

自社株に関して言えば、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律4条1項11、「対象自社株の価格を遺留分算定の基礎財産に参入しない旨の合意をする」という方法があります。これは後継者が負担する遺留分侵害額を低額化することが可能となるため一度検討してみる価値はあります。

親族内承継を脅かすのはいつの時代も決まって「お家騒動」、「社内からの反乱」です。中小企業であっても会社は「公器」であることに変わりはありません。いつか訪れる事業承継を見据えた広い視野で経営に取組んでもらいたいと思います。

文・Antribe社長 小林 伸行(M&Aアドバイザー)