バイオベンチャーのテラ 適時開示の4割が事実と異なると公表

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契約した企業の正式な会社名すら断定できないなど前代未聞の事態だ

ジャスダックのテラ 1年間の開示の4割が事実と異なるおそれ

公開日付:2021.09.28

 バイオベンチャーでコロナ治療薬の開発で株価が急騰したテラ(株)(TSR企業コード:296045896、ジャスダック上場)は、2020年4月から1年間に適時開示した60件のうち、4割にあたる24件で一部、または全部が事実と異なっている、またはそのおそれがあると発表した。
 メキシコで共同研究を契約した企業の正式な会社名すら断定できない。また、臨床試験の実在性にも嫌疑が生じ、株式取得を発表した会社は存在が確認できなかったなど、上場会社としてあり得ないガバナンス(企業統治)不全に陥っている。
 テラに9月17日、取材を申し込んでいるが、9月28日17時までに回答はない。
 コロナ禍を騒がせた記載などで揺れるテラを取材した。

テラの本社
テラの本社 TSR撮影 ©東京商工リサーチ

 新型コロナ感染拡大でワクチンや治療薬が注目されていた2020年4月27日、テラはCENEGENICS JAPAN(株)(TSR企業コード:134023846、千代田区、以下セネ社)と新型コロナ治療法の開発に関する提携を発表した。

 これを好感しテラの株価は同日初値165円からジリジリと上昇し、5月22日に1000円に乗せ、6月9日は2175円まで急騰し、注目を集めていた。

ガバナンスやコンプライアンスに問題も

 テラは、免疫で重要な働きを担うとされる樹状細胞ワクチン療法の研究開発などを目的に2004年6月、設立された。5年後の2009年3月にはジャスダック上場も果たした。
 順風満帆にみえたが、2018年に株式売却や増資に絡むガバナンス問題が発覚。第三者委員会は矢﨑雄一郎社長(当時)に対し、「上場企業の経営者として求められるコンプライアンス意識の水準に達していないものと評価せざるを得ない」と厳しく指弾した。
 矢﨑氏は同年解任され、代表取締役に遊佐精一氏が就任したが、2019年3月には平智之氏に交代した。
 しかし、同年7月に再度、有価証券報告書等の重要な事項の不記載で、証券取引等監視委員会から課徴金納付命令の勧告を受け、ガバナンス(企業統治)やコンプライアンスの強化が急務になっていた。

新型コロナ新薬開発の発表で株価高騰

 2020年に新型コロナウイルス感染が広がると、テラ周辺が騒がしくなる。テラに関係していた人物が保有する株式を、首都圏の会社に譲渡する契約でトラブルが発生。
 この取引の連帯保証をしていたとされるのがセネ社で、関係者とセネ社は訴訟に発展した。
もう一つは、2020年4月にテラはセネ社と業務提携を結び、新型コロナに有効な新薬開発事業を始めたと開示した。
 コロナ禍の不安が広がる中での発表で、投資家の期待を集め株価は急騰した。
 こうした事が複雑に絡み合い、問題発覚に繋がっていく。

薬事申請の虚偽報道を否定

 テラは2020年5月、メキシコで新型コロナに対する臨床研究が開始されたと発表した。だが、同年6月に一部週刊誌などで治療薬開発は行われていないと報じられると、テラはセネ社から治療新薬の臨床試験は承認されているとすぐに反論した。
 その後、セネ社の当時の社長がメキシコ・イダルゴ州知事と共同会見を行ない、同知事によるメキシコ政府への薬事申請、セネ社の子会社プロメテウス・バイオテック(以下プロ社)の薬事申請はイダルゴ州保健局に行われていた、などの情報を相次いで開示した。
 そして、8月にはプロ社の発行済株式の51%をセネ社から取得し、子会社化するための株式譲渡契約書の締結を開示した。
 こうした一連の動きについて、薬事承認は虚偽と指摘するネット上の投稿もあったが、テラは虚偽でないと否定。10月にはセネ社を割当予定先とする約36億円の第三者割当増資を開示した。
 だが、第三者割当増資は12月に一部払込みがあったものの、大半は失権した。さらに同月、株式を取得したプロ社がイダルゴ州以外での薬事承認が得られる見込みがなく、セネ社に買い戻しや譲渡代金の支払いと増資にかかる10億円の違約金支払いを求めたが、セネ社からは応答がなかったという。
 テラの株価は、6月8日の2175円をピークに下落。そして2020年12月28日、終値が223円とピークの約10分の1にまで下落した。

証券取引等監視委員会による強制調査

 投資家からの不信感が強まるなか、2021年1月以降、セネ社の関係者とみられる人物が、テラやセネ社の役員の会話や取締役会の審議内容をインターネット上で公表する事態に発展した。さらに2021年3月、証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反の疑いでテラやセネ社などの関係先の強制調査に動いた。
 テラは2020年9月、特別利益や損失を開示したが、開示は遅かった。同年12月、東証から公表措置や改善報告書の徴求措置を受けたが、措置決定後も新たな不適正開示が発生するなど、ガバナンス改善に後手に回っていることも明らかになった。
 テラは2021年7月、平智之代表取締役が辞任した。新しい代表取締役には真船達氏が就任したが、ガバナンス体制の強化や、社内の人材拡充など課題が山積している。

調査報告書で衝撃の事実が

 テラは8月16日、セネ社との取引を調査していた法律事務所から調査報告書を受領し、発表した。そこにはイダルゴ州で薬事申請していたプロ社の存在が確認できなかったとされている。TSRの提携するD&B社の海外企業データベースでも同社の存在は確認できない。
 また、イダルゴ州やメキシコ合衆国の他州で医薬品が薬事承認(衛生登録)される制度も存在しなかった。テラが開示した情報で、事実と異なる開示事項が次々と浮かび上がり、9月27日、追加調査が公表された。報告書では、セネ社の説明や提供された根拠資料が誤りだったり、不十分であったにもかかわらず、徹底した追加確認ができていなかった点を指摘している。

セネ社は破産開始決定

 第三者割当増資でテラとトラブルとなっていたセネ社は、テラの株式譲渡を巡る件でもトラブルが発生していた。訴訟記録などによると2021年3月以降、セネ社はテラ株式を保有する人物と、別の法人による株式譲渡の連帯保証をしていたようだ。
 だが、その譲渡取引の代金を巡ってトラブルが発生し、セネ社は連帯保証契約に基づく請求で訴訟になった。
 そして、セネ社は2021年4月、債権者から破産を申し立てられた。一方、セネ社も他社に債権者破産を申し立て、訴訟合戦となったが、9月6日、セネ社は東京地裁から破産開始決定を受けた。セネ社が申し立てた債権者破産は棄却されたという。
 訴訟は、破産開始決定で中断している。

最終赤字は7期連続

 テラは業績も下降線をたどる。直近で連結の最終利益が黒字だったのは、2012年12月期が最後で、2013年12月期から2020年12月期まで7期連続の最終赤字が続く。
 売上減も深刻で、2017年12月期に売上高10億円を下回り、その後も下がり続け、2020年12月期の売上高はわずか7636万円だった。
 このため、2018年12月期以降は売上高より最終赤字額が大きい異常な状況が続く。赤字が累積し債務超過を避けるため、増資などで純資産額の積み上げ株価対策を急いでいた。
 当時のジャスダック上場廃止には、5期連続の営業赤字と営業キャッシュフローのマイナスという基準があった。テラは営業赤字が5期以上続いたが、営業キャッシュフローは2017年12月期にプラス4700万円で、同基準には該当していない。

 事実と異なる相次ぐ開示で、テラの株価は乱高下し、渦中のセネ社は破産した。
テラは新しい役員らがガバナンス強化を急ぐが、セネ社との取引で事実と異なる情報を次々と開示した責任は重い。
 さらに、これだけの騒動を起こしたセネ社に共同事業契約の解除や1億円の返還を求める請求を起こしたのは2021年8月23日だった。損害賠償請求に至っては準備を進めていたが、「破産手続きに従い請求せざるを得ない」という状況だ。あまりの遅さに本気度すら疑われる。
 一般論として、有価証券報告書等の虚偽記載の開示は、虚偽の内容により東証が特設注意市場銘柄に指定する。内部管理体制の改善見込みが立たない場合、上場廃止に進む可能性もある。
 テラにどのような処分が下るのか。証券取引等監視委員会の強制調査の行方も気になる。コロナ禍で投資家を惑わせた開示への責任は、決して小さくない。

テラの業績
テラの業績 TSR撮影 ©東京商工リサーチ

東京商工リサーチ「データを読む」より

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