ビズサプリの泉です。新型コロナ感染症について、緊急事態宣言が解除され経済活動が再開されつつあるものの、東京では新規感染者数が少し増加しているように感じます。電車などの公共交通機関に乗ると乗車客数も一時期に比べると明らかに増加していますし、繁華街の人手も戻ってきているようです。

自分の業務においても出張や会食の予定が入り始めたりと、ステージが変化したのだろうとは思いつつ、ワクチンもまだないため、油断は禁物と感じています。

そんな中、自分の業務と割と関わりあいのあるベンチャー業界において29億円という巨額の横領事件がおきました。今回は、現金・預金の横領について考えてみたいと思います。

1.なぜ横領するのか?

新聞報道によると今回の29億円の横領はFX取引に使われたとのことでした。巨額横領事件として少し前になりますが、青森県住宅供給公社横領事件では15億円を横領し女性に貢いだといわれています。

小売店舗においては、少額ですが現金の紛失は割と日常茶飯事であり、「こちらは今日飲み会だけどちょっと手持ちがないな」といった軽い気持ちから起こることが多いと思われます。

いずれにしても、派手な生活をしたい、投資の失敗を穴埋めたいなど、粉飾などとは異なり、完全に個人の金銭の欲に起因することが多いといえます。

また、東京三菱銀行の10億円横領やみずほ銀行の13億円横領などに代表されるように金融機関においては横領事件がよく報道されていますが、現預金を取り扱う業種という特殊性があるため今回は考慮せず、一般の事業会社、特に本社部門について考えてみたいと思います。

2.不正のトライアングル

一般的に不正は「不正のトライアングル」が揃ったときに発生するといわれています。詳細はここでは省きますが、簡単にいうと次の3つの要素となります。

動機:不正を行う理由(例:ノルマへのプレッシャー)
機会:不正を行える環境(例:担当が自分のみで発見される可能性が低い)
正当化:不正を正当化する事情(例:待遇への不満、自分だけやっているわけではない)

現金・預金の横領に不正のトライアングルをあてはめると具体的には次のようなものになります。

動機:個人的に借金を抱えている
機会:担当者は自分のみ、又は自分に決裁権限がある、第三者のモニタリングがない
正当化:一時的に借りるだけ、報酬・待遇への不満(もっともらっていいはず)

3.非上場会社における横領

非上場会社では通常オーナーに権限が集中しており、ネットバンキングの承認権限や銀行印もオーナー自ら管理していることが多く、その場合は横領も起きづらいといえます。(オーナー自ら横領する動機もないため)

ただし、その権限を従業員に移譲した後は、中小企業が多い非上場会社においては、十分に人員がいないため、担当者は少数又は1人、出納と記帳は同じ担当となりがちです。特にオーナーが信用して移譲している人物の場合は人事異動もなく、同じ担当者が1人で長期に担当することもよくあります。当然、銀行印などもその担当者が管理を任されます。

ベンチャー企業やその他の非上場会社では厳しい監査もないこともあり、経理担当者による現金・預金の横領や不正な経費精算が実は結構おきています。

4.上場会社における横領

上場会社となると、少し事情が異なります。
経理担当は複数いることに加え、通常上場の過程において出納担当と記帳担当は分けられており、現金出納、振込業務は1人で行うことはなく、ダブルチェック体制が基本的に備わっています。

そのうえで上場会社における横領は大きく2つあると思います。

<不正な送金>
経理担当役員や経理部長など決裁権限のある人が、通常の支払フローを経ることなく直接、支払作業担当者に指示をして送金することがあります。この場合において、担当者は自分の上長から、時には役員から指示されると、イレギュラーにもかかわらず適切であるかを考えずに実施することがままあります。(後で理由をきくと「誰々さんからいわれたから。」と答えます。)

実際、直接の上長である課長を通さず部長が担当者に直接送金依頼し、途中でそのことを知った課長が作業をとめさせ、通常の支払フローを経るよう指示するという事例もありました。(幸いにもその件では不正ではありませんでしたが。)

<不正な経費精算>
上場企業となると規模も大きくなり経費精算の権限もオーナーから委譲されることとなります。請求書などに基づく通常の支払は取引先の登録など一定、統制が入っていますが、経費精算は従業員に払うこともあり甘くなりがちです。
結果として、プライベートの費用を不正に精算することいったことが起きやすい構造となります。

5.対応策

現金・預金の横領は個人の金銭の欲によるものが多く、また動機は他者から認識することは難しいため、正当化と機会に対応することが効果的です。

<正当化への対応>
・コンプライアンス意識の高い企業風土の醸成
  ー ルール軽視の企業風土の場合個人の主観による正当化が起きやすい
・(難しいですが)できるだけ透明性、納得性の高い評価制度、報酬制度の設計
  ー 待遇への不満がたまりやすい

<機会への対応>
・経理担当、特に責任者(部長クラス)の定期的な異動
・決まった承認、決裁手続きの順守
  ー 不正の場合は責任者自ら支払データを作成や指示などイレギュラーな場合が多い
・経費精算においては、使用用途を制限するとともに自己承認を許容しない

文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.118 2020.6.15)より転載