4. 最強の買収防衛策は株式持ち合い

結局のところ、最強の買収防衛策は親密な取引先などと株式持ち合いを行うことにより、自社の株主構成を安定株主で固めることである。事前警告型買収防衛策は、前述のように制度設計上、保身目的で利用することができない上に、安定株主が十分にいなければ、機関投資家の反対により導入もできないし、ひとたび導入できたとしても廃止に追い込まれ維持もできないからである。そのため、買収防衛策では経営陣が期待するような買収防衛の効果は持たない。

買収防衛策と株式持ち合いの関係については、既に今から10年も前に、胥鵬教授による実証研究により、以下のように結論付けられている(胥鵬「買収防衛策イン・ザ・シャドー・オブ株式持合い」旬刊商事法務1874号45頁以下)。

・株式持合比率が高い企業ほど買収防衛策を導入する傾向がある。
・株式持ち合いを進めている企業が買収防衛策を導入するという期待は株式市場で織り込み済みであり、防衛策の導入そのものは企業評価に影響を及ぼさない。
・換言すれば、買収防衛策は株式所有構造の結果であり、株式持ち合いという「究極の防衛策」の機能はすでに株式市場で認識されている。
株主総会で防衛策が承認されたり、あるいは防衛策導入の議案上程が見送られたりする要因は、株式所有構造、すなわち、株式持ち合いにある。言い換えれば、事前警告型などの買収防衛策より本質的なものは、株式の所有構造である。

ヨロズの本年6月20日付有価証券報告書の「株式の保有状況」によれば、レノも指摘しているように同社には政策保有株式があるし、また、一部の保有先とは株式の相互保有(持ち合い)も行っている。安定株主が具体的にどの程度いるかは伺い知れないものの、買収防衛策の継続に関する決議が容易であったことが想像できる。

5. ガバナンス改革の「本丸」としての他社株式政策保有の解消

一方で、株式持ち合いは会社経営を弛緩させ、かつ、資本効率を悪化させることから、その解消、それも事業会社同士の株式持ち合いの解消は、コーポレートガバナンス改革の本丸の一つとなっている。

昨年のコーポレートガバナンス・コード改訂では、政策保有株式の縮減を基本とするなど大幅な見直しが図られたし、本年3月期から適用された改正企業内容開示府令により、有価証券報告書における政策保有株式の開示規制も強化された。このような流れを受けて、政策保有株式の縮減は進み、その結果、多くの会社では安定株主を失うことで、経営陣としては再任される保証のない中、より緊張感ある経営を求められることになっていくであろう。

株式持ち合いを解消し、株主が分散することとなった会社は、買収防衛策の本来の設計思想に沿う、株主への検討機会の提供という手段が必要であったとしても、買収防衛策を導入、維持することは困難であろう。

これに対して、依然として株式持合いにより安定株主が多く、大規模買付けが難しい会社では買収防衛策を維持することが可能だろう。そうなると、買収防衛策は現在において果たしてどこまで意味があるものなのか。

事前警告型買収防衛策の設計に関与してきた筆者個人としては、会社の置かれた状況と運用次第では、買収防衛策は本来の設計思想に沿って適切に利用することが可能であると考えているが、コーポレートガバナンス改革の進展という時代の大きな動きの中で、買収防衛策は発展的に解消されていくものなのかもしれない。

文:柴田 堅太郎(弁護士)