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「公正なM&Aの在り方に関する指針」案を読む

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4.特別委員会委員の報酬

本指針案は、特別委員会委員の報酬についても言及している(本指針案3.2.4.7)。特に、社外役員については、「特別委員会に係る職務には通常の職務に比して相当程度の追加的な時間的・労力的コミットメントを要する」ことから、役員報酬とは別に委員としての報酬を支払うことが検討されるべきとしている。

しかし、特別委員である役員には役員報酬以外の報酬が支払われない(支払われたとしてもせいぜい交通費名目などによる些少な金額)例が少なくないのではないか。これは、①会社が別途報酬を支払うことは、少数株主の利益保護を使命とする特別委員会委員にとって利益相反を招かないかという懸念があること、②社外役員の特別委員会委員就任はまさに社外役員として期待されるべき役割である以上、役員報酬の範囲内で行うべきであるという考え方に基づくものと思われる。

もっとも、MBOと完全子会社化取引の対象会社となるのは比較的小規模な上場企業も少なくなく、その場合には社外役員の報酬が低廉であることも珍しくなく、その場合には社外役員である特別委員が当該案件については熱心に検討を行わないおそれがある。利益相反の懸念はあるとしても、特別委員会委員としての役割を十分に果たすための適切なモチベーションを保持させることも極めて重要であるし、何より特別委員会委員はその役割から高いリスクを負っている以上、本指針案の示唆するとおり、社外役員である委員に別途の報酬を支払うことを積極的に検討するべきではないか。

5.フェアネスオピニオン取得と積極的なマーケット・チェック

本指針案では、ベストプラクティスの一内容として、第三者評価機関からのフェアネスオピニオンの取得と(本指針案3.3.2.2)、市場における潜在的な買収者の有無を調査・検討する「積極的なマーケット・チェック」を提案している(本指針案3.4.2)。現在の実務では、対象会社の株式価値算定書の取得は行われているものの、フェアネスオピニオンを取得することまではあまり行われていない。

また、公開買付期間を比較的長期に設定するなどの「間接的なマーケット・チェック」までは実務上行われているものの、「積極的なマーケット・チェック」まで行われることは極めて少ないものと認識している。

本指針案が確定してから、これまで必ずしも行われてこなかったフェアネスオピニオンの取得と「積極的なマーケット・チェック」が実務として根付くかどうか、注目されるところである。

6.最後に「社外役員」の適性について

本指針案第4章「終わりに」でもあらためて強調されているように、本指針案では、MBOと完全子会社化取引では、社外役員、それも特に社外取締役が特別委員会委員の中心的担い手として期待されている。

一方で、社外役員のバックグラウンドは様々であり、MBOと完全子会社化取引のような、買主と少数株主の利害衝突を慎重に検討するべき場面に資する知見を必ずしも有していない(有することが事実上期待できない)社外役員も一定数存在するであろう。

そのような中で、たとえアドバイザーのサポートがあったとしても、本指針案が強調するような社外役員の役割が常に全うできるとは限らない。これはM&Aの場面に限らず、社外役員、特に社外取締役の適性に関する議論全般に通じる問題といえる。

2018年に策定された改訂コーポレートガバナンス・コード及び「投資家と企業の対話ガイドライン」では、財務や会社法等の関係法令の理解など持続的な成長と企業価値の向上に寄与していくための知見が社外役員の資質として求められている。企業としては、MBOと完全子会社化取引のような「有事」が自社に起きうることを踏まえて、自社の社外役員に求めるべき適性について検討しておくべきであろう。

文:柴田 堅太郎(弁護士)

柴田 堅太郎 (しばた・けんたろう)

所属弁護士会
第一東京弁護士会・2001年登録(司法修習54期)
ニューヨーク州弁護士・2007年登録

取扱分野
M&A、組織再編、ジョイントベンチャー、ベンチャーファイナンス、コーポレートガバナンス、 敵対的買収防衛、株主総会指導、企業の支配権獲得紛争などのコーポレート案件、コンプライアンス、労務問題、企業法務全般

柴田・鈴木・中田法律事務所 HP
http://www.ssn-law.jp/


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