起死回生戦略としてのM&A

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トランザクションの特徴・ディールブレークイシュー

再成長(起死回生)型案件の場合、既存市場で競争力が低い自社の事業が、成長性の高い市場にポジションを移すだけで本当に競争優位を築けるのか、という点について、非常に慎重な分析が必要です。 

現地ローカルの先行競合企業には勝てるのか、勝つにはなにか条件となるか、ターゲットだけでなく、参入しようとする市場と業界構造、競争環境に関する洞察が他にも増して重要となります。

メジャープレーヤーがひしめくアジアの新興国ではなく、ニッチな南米の中堅国のマーケットをあえて狙うなど、ニッチトップを目指す発想も有効になる可能性がありますが、それだけに他社がなぜやらないのか、もしくはできないのか、そこはブルーオーシャンなのか、不毛地帯なのか、強みを生かせるのか・・・慎重に見極める必要があります。

取引スキーム

新市場に先んじて参入して、先行者メリットを取ることが最大の目的となるため、ターゲット企業を丸ごと買収してでも、その販路に自社の製品を早く供給することが必須となります。

PMIのポイント

一刻も早く新市場で自社の既存製品・サービスのシェアをあげることが最も重要になると思われます。また水平統合の類型でもあるため、ターゲットとの他の競合があとから参入してきても脅威になりにくくする(または参入できない)ような手だてを講じることができないか、といった点も検討し、打てる手は早く打つことも重要です。

例えば、同業他社が次に買収しそうな競合を、先んじて追加買収してしまう。現地法に基づく重要な特許等を抑えて、参入障壁を高める、などが理論的には考えられます。そして、市場シェアを早く高め、競争優位性を早く築くために、時間との勝負がより重要になります。

まとめ

今回は、起死回生型のM&Aについて考察してみました。しかし、このタイプの案件の実行は他のタイプのM&A以上に、価値実現のための難易度が高く、絵に描いた餅に帰することが懸念されます。本来撤退すべき事業が、撤退しないための「言い訳」になってしまう恐れもあり、より慎重な検討が必要と思われます。 

全6回のコラムでは、全社戦略(ポートフォリオ変革)の観点で見たM&Aの意味合い、ディール、PMIの特徴等を概観することに挑戦してみました。

実際のディールでは、このような定型的な考察にとらわれることなく、次々と変わる案件状況にいかにアジャストし、知恵を絞ることが必要と思われます。しかし、様々なM&Aを自社の全社戦略と紐付て体系化し、様々なケースを想定してシミュレーションをしておくことは、いざ案件が佳境に差し掛かったとき思わぬ役に立つこともあるのではないかと考えます。

本記事は、IGNiTE CAPITAL PARTNERS ホームページより転載しております

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西澤 龍 (にしざわ・りゅう)

IGNiTE CAPITAL PARTNERS株式会社 (イグナイトキャピタルパートナーズ株式会社)代表取締役/パートナー

投資ファンド運営会社において、不動産投資ファンド運営業務等を経て、GMDコーポレートファイナンス(現KPMG FAS)に参画。 M&Aアドバイザリー業務に従事。その後、JAFCO事業投資本部にて、マネジメントバイアウト(MBO)投資業務に従事。投資案件発掘活動、買収・売却や、投資先の株式公開支援に携わる。そののち、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS 現在IBMに統合)に参画し、事業ポートフォリオ戦略立案、ベンチャー設立支援等、コーポレートファイナンス領域を中心にプロジェクトに参画。2013年にIGNiTE設立。ファイナンシャルアドバイザリー業務に加え、自己資金によるベンチャー投資を推進。

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業(マクロ経済政策、国際経済論)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員 CMA®、日本ファイナンス学会会員

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