大学発ベンチャーの「起源」(38) イノカ

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イノカ(東京都港区)は、東京大学発の人工知能(AI)・モノのインターネット(IoT)ベンチャー。創業者の高倉葉太最高経営責任者(CEO)が同大工学部を経て同大学院学際情報学府を修了後、2019年4月に「環境移送企業」として立ち上げた。

AIとIoTを駆使してリアルな「海」を再現

「環境移送」とは聞き慣れない言葉だが、イムカのオフィスにある水槽を見ればコンセプトが分かる。一般家庭の浴槽サイズほどの水槽に50種類の生物を飼育しているが、ここでサンゴの人工産卵を実験中だ。

イノカのサンゴ人工産卵実験水槽(同社プレスリリースより)

サンゴの人工産卵自体が世界でも数えるほどしか例がないというが、海水を引くなどの自然環境を利用せず水槽内のみで実現する「完全閉鎖環境」で成功すれば世界初となる先端研究だ。それを実現するのが、同社のAI・IoT技術である。

サンゴの産卵には水温が大きな影響を与える。そこで同社はサンゴの生息地である沖縄・久米島の海中に設置したセンサーで測定した海水温データをリアルタイムで自動受信し、水槽を同じ温度に制御する。併せてサンゴの養分などの含有量や明るさなどのデータも利用して、久米島の海と同じ環境を再現する仕組み。

つまり、水温や水質、水流、明るさ、微生物を含む多様な生物との関係などのバランスをとり、自然に限りなく近い形で海の環境を切り取り、陸上で再現するのが「環境移送」なのだ。

地球温暖化など環境破壊の影響で、サンゴの生息地は壊滅的な打撃を受けている。サンゴが死滅した水域では他の生物種も激減すると言われ、保護が急務となっている。イノカでは人工産卵技術を確立することにより、サンゴの生息地拡大に貢献したいとしている。

2020年7月26日に中国からシンガポール経由でブラジルに向かっていた貨物船がモーリシャス島沖で座礁、燃料油が流出する事故が発生した。これを受けて同船をチャーターしていた商船三井が、イノカと共同で事故海域の環境回復に向けた取り組みを始めている。

サンゴ研究の豊富な知見を持つイノカがアドバイザリーとして協力・支援することで、流出した油で被害を被ったサンゴ礁の回復を目指すという。AI・IoT技術を駆使して地球環境を救うというスケールの大きい大学発ベンチャーだ。

文:M&A Online編集部

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