2020年11月3日、馬雲(ジャック・マー)氏が創業した電子商取引(EC)大手アリババグループの金融サービス部門「アント・グループ」の新規株式公開(IPO)が突如として中止された。報道では「マー氏が中国の金融当局を批判した発言が問題視された」「香港の民主化弾圧など習近平体制の強化を狙った一連のパフォーマンス」との憶測が飛び交っているが、本当にそうなのだろうか。

あまりにも不可解な直前の「待った」

アントは日本でも利用可能なスマートフォン(スマホ)決済アプリ「支付宝(アリペイ)」の運営会社で、利用者は10億人を超える巨大決済事業者である。11月5日に香港と上海の証券取引所での上場を予定していた。

アリババとアントグループの「親子上場」は延期に(香港証券取引所ホームページより)

両取引所で合計計344億ドル(約3兆6000億円)分の株式を売り出し、企業価値評価額は3130億ドル(約32兆7000億円)と先進国の銀行でも上位にランクインするはずだった。その2日前にアントはIPOの延期を発表したのである。

「問題発言説」の根拠になっているのは、延期発表の前日(11月2日)にマー氏が金融当局から事情聴取を受けたこと。10月下旬にマー氏が上海市で開いた講演で「良いイノベーションは監督を恐れない。ただ、古い方式の監督を恐れる」と、中国金融当局の保守的な規制を批判したのを受けた措置とみる。

しかし、マー氏の問題発言が飛び出す以前から、中国金融当局によるアントへの「締め付け」は始まっていた。アントは消費者や小規模事業主向けの小口融資で急成長を遂げている。その原資となっているのが、同グループが発行する小口融資を裏付けとする資産担保証券(ABS)だ。

一般にABSは売掛債権やリース債権、自動車ローンなどを担保にして発行されるが、アントは消費者や小規模事業者向けの貸付債権を証券化し、それを新たな小口融資に回している。その結果、アントの融資残高は跳ね上がり、手数料収入の増加によって業績も急成長した。