後継者不足で事業を外部人材に引き受けてほしいと思う中小企業経営者が増えている。事業にはたくさんのお金がかかる。成功すれば賞賛され、失敗すれば地獄に落ちる。保証人の前に連帯と付くだけで、大変責任が重くなる。

結婚が人生最大の賭けと言われるようにM&Aにも運がいる

 初めて融資を受け連帯保証人になった時、融資契約書にサインする際に手が震えたと多くの経営者が言う。そろそろ引退したいが子供にはそのようなつらい思いまでして経営を継がせたくない、息子も親の姿を見て継ぎたくないというケースもある。社員は自分が経営者になるなんてとんでもないと思っているケースだってある。

 財務は少々痛んでいるが、自分がやってきたこの事業は才覚のある人物であればきっと黒字にして、社員の生活も支えてくれるだろう。経営者自身のことを心配するよりも自分のところで頑張ってくれた社員やその家族の行く末を心配しているのが、会社を売りたいと思う経営者の気持ちであろう。

 企業風土がよく似た場合のM&Aは比較的うまく行くケースが多いが、自力でそのような企業と巡り合うことはなかなか難しいので、公的機関やM&Aの専門家らに依頼してお見合いを進めることになる。

 買い手企業の立場としては、自社の事業となるべく近い事業の方が成功確率は高いように思うが、M&A後、引き継いだ社員が新しい会社の風土に馴染めずに反発して退職し、会社がもぬけの殻になってしまって、ただ赤字を作っただけに終わると最悪である。

 結婚が人生最大の賭けと言われるようにM&Aにも運がいる。神様に頼むことも必要かもしれない。

売り手企業の思いを買い手企がしっかりと引き継いでいく時間が必要

 ある地方都市の商店の事例だ。地元の特産物を扱う老舗の商店主が高齢のため引退を考えた。後継者はいない。知人に勧められ、後継者求むとのニュースリリースをして公募したところ、驚くほどの人数が応募してきた。

 商店主は一人ひとり面接して考えた。小さな商店だが、扱っている商品は魂を込めて売っている。この場所だから扱える貴重な特産物だ。自分の名誉など何もいらない。その代わり、この場所で末永くこの商品を可愛がって、売ってくれる人に経営を継いでほしい。

 後継者に指名された人物は、商店主の自分のことより地元の食文化を守りたいという信念に惹かれた。長く商売してきた会社には目に見えないプラスがいっぱいある。最初の2年間は商店主が切り盛りし、後継者がその下で学ぶ体制とした。

 その後は経営を交代するが、さらに向う3年間は商店主が経営をサポートする二人三脚体制を作った。M&A契約を交わした途端、それでお別れといったケースの方が一般には多いと思うが、事業を円滑に進めていくには売り手企業経営者の思いを買い手企業経営者がしっかりと引き継いでいく時間が必要なこともある。