【M&Aインサイト】株式買取請求の撤回の効果に関して判示した裁判例
今回は、株式買取請求の撤回の効果に関して、撤回によっても株式交換前又は後の株式の引渡しを受けることはできず、撤回前と同様に金銭を受け取る権利を有するにとどまる旨を判示した裁判例をご紹介します。
平成26年6月20日、会社法の一部を改正する法律案が可決・成立いたしました。(施行日は未定ですが、平成27年4月1日から施行となる可能性が高いようです。)
その中で新たなキャッシュアウトの方法として、対象会社の承認により、少数株主から支配株主への株式売却を強制的に実行する「特別支配株主の株式売渡請求」という制度が新設されました。
キャッシュアウトとは、現金を対価として少数株主を会社から追い出すことをいい、持株割合が100%でない子会社を100%子会社化する場合や、株主の管理コストの削減などを目的として少数株主を排除する場面などで一定の需要があります。
現行の会社法においても、全部取得条項付種類株式の取得等の方法によりキャッシュアウトを実行することができましたが、株主総会決議や裁判所の許可などの手続が煩雑なため中小企業にとってはハードルが高く、使い勝手の良いものではありませんでした。
今回の会社法改正により、従来のキャッシュアウトの方法と比較し、より簡易な手続でキャッシュアウトが実現できる制度が新設されたことになります。
本制度によれば、株式会社(「対象会社」)の総株主の議決権の10分の9以上を有している株主(「特別支配株主」)は、対象会社の承認を得ることにより、 対象会社の他の株主の全員(「売渡株主」)に対し、その有する株式の全部(「売渡株式」)を売り渡すことを請求することができます。
本制度を利用して、株式売渡請求をする場合の手続きの概略は、以下のとおりとなります。
(1)特別支配株主による株式売渡請求
特別支配株主は、株式売渡請求の内容として、対価として交付する金銭の額や取得日などを決定し、対象会社に通知します。
(2)対象会社による承認
対象会社は、特別支配株主からの通知を受け、取締役(取締役会設置会社の場合は、取締役会)は、当該請求を承認するか否かの決定をします。
(3)売渡株主への通知又は公告
対象会社は、取得日の20日前までに売渡株主に対し、売渡請求の内容および売渡請求を承認した旨を通知します。この通知は公告をもって代えることができます。
(4)事前備置
対象会社は、株式売渡請求に関する書面等を備え置き、売渡株主はその閲覧などを請求することができます。
(5)取得日の到来
特別支配株主は、取得日をもって、売渡請求にかかる株式を取得します。対価の支払期日も取得日となりますが、同時履行は求められていないため、対価の支払未了でも、取得日以降は、売渡株式に基づく株主権を行使できることになります。対価の支払方法について会社法上の規定はありませんが、実務的には対象会社から特別支配株主に対して売渡株主の口座情報が提供され、振込などの方法により支払われることになるでしょう。また、口座情報などが不明な所在不明株主に対する支払いは、所在が分かり次第、支払いができるよう準備をして待つか、債権者不確知として法務局に供託をし、代金支払債務を免れることになると思われます。
(6)事後備置
対象会社は、株式売渡の取得に関する書面等を備え置き、取得日に売渡株主であった者はその閲覧などを請求することができます。
改正会社法では、少数株主の権利が不当に害されることのないよう、下記の3つの方法により、売渡株主の保護を図っています。
(1)売渡株式の取得をやめることの請求
売渡株主は、①株式等売渡請求が法令に違反する場合、②対象会社が通知又は公告若しくは事前備置の義務に違反した場合、又は③売渡株式の対価の定めが著しく不当である場合において、不利益を受けるおそれがあるときは、株式売渡請求の差止請求をすることができます。
(2)売買価格の決定の申立て
売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、売渡株式の売買価格の決定の申立てをすることができます。
(3)売渡株式の取得の無効の訴え
売渡株主は、取得日から6か月以内(非公開会社の場合、1年以内)であれば、売渡株式の取得の無効を、訴えをもって主張することができます。
今回ご紹介した特別支配株主の株式売渡請求は、スピーディかつ低コストのキャッシュ・アウトの方法として、改正会社法施行後、普及していくことが見込まれております。
文:司法書士法人・行政書士法人 星野合同事務所 法律&税制トピックス2014.10.20 より転載
司法書士法人・行政書士法人 星野合同事務所 |
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今回は、株式買取請求の撤回の効果に関して、撤回によっても株式交換前又は後の株式の引渡しを受けることはできず、撤回前と同様に金銭を受け取る権利を有するにとどまる旨を判示した裁判例をご紹介します。