企業買収に際し、売主・買主間で締結される株式譲渡契約については、米国におけるM&A実務等を参考にした一般的な枠組みが存在しますが、近時は、課税関係に配慮して補償条項を作成するという実務も定着しつつあります。
例えば、買主が売主から表明保証違反に基づいて補償金を受け取った場合、補償金の法的性質を損害賠償金と考えると、受け取った補償金は買主において益金に算入され、課税されることになります。他方、株式譲渡契約において、補償金の支払いは株式譲渡の対価の減額であることを明記している場合には、買主において益金に算入されず(国税不服審判所裁決平成19年9月8日裁決事例集72号325頁)、課税が将来に繰り延べられると考えられるため、補償条項の作成にあたってそのような規定を設ける例も増えてきました。
その他、①対象会社の繰越欠損金の減少、②対象会社に源泉徴収漏れがあった場合の源泉税相当額、及び③補償金に課税が生じた場合の課税相当額が補償の対象となる「損害」に含まれるかといった点や、対象会社に生じたキャッシュ・アウトが対象会社において損金に算入される場合、その税効果分(Tax benefit)を「損害」の額から控除できるかといった点が問題となることもあります。将来の紛争を未然に防ぐという観点から、これらの点について株式譲渡契約にあらかじめ規定(例えば上記③の場合であればグロスアップ条項等)を設けておくという対応も考えられるところです。
実際には、上記のような対応を行うことが必ずしも現実的ではない事案もあると思われますが、補償条項の作成にあたり、上記のような検討を行うことの重要性は高まっているといえます。
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文:森・濱田松本法律事務所Client Alert 2015年9月号Vol.21より転載