『シルクロード.com―史上最大の闇サイト―』監督インタビュー

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©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

完全匿名で取引する闇サイトをアナログ捜査官が追い詰める

2011年、検索エンジンではヒットしないダークウェブと暗号資産(仮想通貨)“ビットコイン”という二つの暗号化技術を用いて、違法ドラッグから武器の売買、殺人依頼まで完全匿名で取引可能にした闇サイト「シルクロード」が誕生。1日の売上げは1億円超え、“闇のAmazon”“ドラッグのeBay”とも呼ばれました。

立ち上げた若き天才は警察、FBIのサイバー捜査を完璧にかわしていましたが、2013年、パソコンも使えないアナログ捜査官が追い詰めたのです。

映画『シルクロード.com―史上最大の闇サイト―』はこの実話から生まれたサイバー・ダーク・サスペンスです。

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「シルクロード」を立ち上げた若き天才ロス・ウルブリヒトを『ジュラシック・ワールド』 のニック・ロビンソン、パソコンも使えないアナログ捜査官リック・ボーデンを『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のジェイソン・クラークが 演じています。

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脚本も担当したティラー・ラッセル監督にお話をうかがいました。

ティラー・ラッセル監督インタビュー

――監督は犯罪レポーターとして、これまでもいろいろな犯罪を追っていらっしゃいましたが、その中で闇サイト「シルクロード」を取り上げたのはなぜでしょうか

犯罪が起きると警察が犯罪者を追う。その犯罪者は捕まって法の裁きが下されるのか。それとも逃げおおせるのか。犯罪物は着地点までの展開がはっきりしていてきれいなところが好きなんです。

闇サイト「シルクロード」については、ロス・ウルブリヒトが逮捕されたことを書いた新聞記事を読んだのがきっかけで知りました。

ロスは美味しい儲け話と壮大な夢を持った人物でしたが、それはかつての僕と重なりました。実は僕も軽犯罪に手を出してしまったことがあったのです。しかし、大事になる前に逮捕されたので、深みにはまらずにすみました。

僕とロスではどこが違ったのか。ロスの身に起きたことは、もしかしたら僕にも起きたかもしれない。しかも僕とロスはテキサスに住んでいたという共通のバックグラウンドがあり、青年期の気持ちがよくわかる。これは映画のいい題材になると思ったことを今でも鮮明に覚えています。

ロスがどんな人物で、「シルクロード」がどんなものなのか。報道資料やすべての裁判資料など、「シルクロード」関連の情報をむさぼるように調べて、自分なりのストーリーを描き始めました。

――脚本を書く上で意識されたことはありましたか。

僕はフィクションもノンフィクションも手掛けるのですが、どういう物語を紡ぐにしても、当事者の視点から描くようにしています。今回はロスとリック、2人の主人公に共感し、感情的に揺さぶられるものがありました。

ロスに直接会って話すことはできませんでしたが、ロスと重なるバックグラウンドをうまく活かしつつ、できるだけロスに近い視点で彼の精神性を迫っていくという気持ちで書いています。

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――ロス本人に面会して、直接、話を聞くことは叶わなかったのですね。

この作品の企画が始まったとき、ロスは上訴したものの判決が下っていない状況でした。ロスに手紙を書いて「面会したい」と伝えようとしたのですが、彼の弁護士が警戒していて叶わなかったのです。

それで手に入る限りの資料を探して読んだのですが、特に参考になったのはFBIが逮捕した後に彼のノートパソコンから押収した日記の内容やチャットログ、“ドレッド・パイレーツ・ロバート”と名乗った投稿など、彼の残したインターネット履歴です。

またロスがお付き合いしていた女性にコンサルタントとして参加していただき、じっくり時間を掛けて“彼がどういう人物だったのか”をうかがい、ロスという人物像を築き上げていきました。

今回はフィクション映画ですが、ドキュメンタリー作品を撮るときと同じ手法で下調べをしています。そして、主人公の独白部分はロスの日記からそのまま文言を取りました。ですから彼の声が反映されているのです。

今でもロスに手紙を書いています。もしチャンスが訪れたら、彼に会って話がしたい。この映画がどこまでリアルに描けているのか、本人の感想を聞いてみたいです。

――事実とエンターテインメント性のバランスについてはいかがでしょうか。

どうしてもわからない部分は推測で書いていますが、今回はできる限り、事実を忠実に描きました。ただ事実に忠実でありながらも、観客が登場人物たちに共感したり、ハラハラしたりしてほしい。張られたロープの上を歩くような非常に難しいバランス感覚が求められました。

しかし“真実は小説より奇なり”ですね。驚くような展開にできたと思っています。

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――親友のマックスが「お金儲けは社交性が大事」といったことに対して、ロスは「人は匿名性を求めている。ネットの発展は秘密を守りたいから」と語りました。このことについて監督ご自身はどう思われますか。

SNSは誰しもが世界に向けて発信できるプラットフォームでありながらも、匿名性の力も最大限に発揮できる場でもある。誰しもが別人格のふりをして行動を起こすことができ、何か願望を何の犠牲も払うことなく叶えることができる場でもある。ロスは私たちの秘められた願望を収益化することができると気がついたのです。そんなインターネットの両面性はとても面白いと思っています。

――監督は犯罪というジャンルに精通されていますが、アメリカにおける犯罪は昔と比べて変わってきているのでしょうか。

アメリカの場合、古くはビリー・ザ・キッドがいて、ゴッドファーザーがいますが、昔から犯罪者や無法者に対してロマンチックに捉え、英雄と同等に魅入られてしまうところがあります。犯罪の手法やスケール感、それにまつわる金額は時代を経て変わってきていますが、悪党を魅力的な人物として捉えてしまうところは普遍的だと思います。

――本作を通じて、監督が伝えたかったのはどんなことでしょうか。

この作品に限らず、自分が手掛ける作品に共通していることなのですが、登場人物たちをジャッジしないということを貫いています。もちろん麻薬取引や殺人といった犯罪を許容しているわけではありません。

ただ、自分自身はこう思うという結論を観客に押し付けるのではなく、差し迫った状況で生きている主人公2人が経験したことを観客のみなさんにも追体験していただき、みなさんがそれぞれの結論を導き出していただければと思っているのです。

――次はどんな事件を扱うのでしょうか。

いくつか犯罪物を手掛けていますが、次のステージはもう少し光を感じるものにしたいですね。最後に希望が持てるような物語を紡いでいければと思っています。

取材・文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

ティラー・ラッセル監督
Tiller Russell Headshot ©Jess Falkenhagen

<プロフィール>

ティラー・ラッセル監督

父親がテキサス州ダラスの地区検察局で働いていた関係で、子供の頃から裁判所や刑務所、警察署に出入りしていた。その影響もあり、犯罪レポーターとしてキャリアをスタートし、その後は犯罪を専門とする作家や脚本家として活動し、犯罪映画の監督やプロデューサーを務める。

今では、ドキュメンタリーとフィクションの両方において、犯罪というジャンルに携わる人物の中で、最も重要な意見を持つ一人として認められている。

主な作品は、『トゥルー・リベンジ』(10・未)、TVミニシリーズのドキュメンタリー作品「ラスト・ナーク 〜麻薬捜査官 殺害の真相を暴く〜」(20)と「ナイト・ストーカー: シリアルキラー捜査録」(21)など。TVシリーズ「シカゴ・ファイア」(14〜16)と「シカゴ P.D.」(16〜17)の脚本も手掛けている。

『シルクロード.com―史上最大の闇サイト―』

<STORY>

「世界を変えたい」─天才的な頭脳に恵まれたロスは、自由な世界を求め、表では絶対に買えない違法物を匿名で売買できる闇サイトを立ち上げた。〈シルクロード〉と名付けたサイトは、瞬く間に熱狂的なブームを巻き起こし、栄華を極める。ハデな動きですぐに警察にマークされるが、ロスは絶対に身元がバレない強固なシステムを創り上げていた。そんなロスを追う捜査官の中に、一人のはぐれ者がいた。彼の名はリック・ボーデン。問題行動を起こし、麻薬捜査課からサイバー犯罪課へ左遷されたもののアナログ全開で足手まといだった。しかし独自の捜査でロスとの接触に成功する。

<作品データ>

監督・脚本:ティラー・ラッセル 「ナイト・ストーカー: シリアルキラー捜査録」(NETFLIX)
出演:ジェイソン・クラーク 『ゼロ・ダーク・サーティ』『ターミネーター:新起動/ジェニシス』ニック・ロビンソン 『ジュラシック・ワールド』
原案:デヴィッド・クシュナー「DEAD END ON SILK ROAD: INTERNET CRIME KINGPIN ROSS ULBRICHTʼS BIG FALL」(ローリングストーン誌)
2021年/アメリカ/スコープサイズ/5.1ch/117分/原題:SILK ROAD /PG-12
配給:ショウゲート
©2020 SILK ROAD MOVIE, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
2022年1月21日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
公式HP:http://silkroad-movie.com

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堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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