着地点は愛? マネロン・政治…てんこ盛りの映画『メビウス』

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世界を股にかけ愛と裏切りが交錯する!!『メビウス』

今回は、フランス・ベルギー・ルクセンブルグの合作で2013年にフランスで上映されたエリック・ロンシャン監督の『メビウス』をご紹介します。

主演は2011年の『アーティスト』でカンヌ国際映画祭とアカデミー賞の男優賞を受賞したジャン・デュジャルダン。フランスで活躍するセシル・ドゥ・フランスがヒロインのアリスを演じ、タランティーノ作品常連俳優のティム・ロスがロシア人実業家を演じています。

フランス人のジャン・デュジャルダンとセシル・ドゥ・フランスにロシア人役とアメリカ人役を振り、英国俳優のティム・ロスにロシア人を演じさせるという、なかなか面白い配役です。ティム・ロスは『インクレディブル・ハルク』でもロシア系軍人を演じていましたね。俳優陣は豪華ですが、残念ながら日本では劇場未公開でした。

あらすじ

ロシア連邦保安庁(FSB)の諜報員”モイズ”ことグレゴリー・リューボフ(ジャン・デュジャルダン)は、実業家イワン・ロストフスキー(ティム・ロス)の不正資金洗浄(マネーロンダリング)の調査をしている。同郷人のロストフスキーの告発はグレゴリーの上司チェルカチン(ウラジーミル・メニショフ)の思惑によるものだった。

グレゴリーは、リーマンショックの影響でアメリカを追われ、ロストフスキーの銀行で働いているアメリカ人女性ディーラーのアリス(セシル・ドゥ・フランス)を、米国への復帰をエサにスパイとして雇う。実はアリスは、ロストフスキーの身辺を調査していた米中央情報局(CIA)にも雇われていた。

CIAは”モイズ”がロストフスキーを調査していたことが後々脅迫の道具になると考え、うまくいけば“モイズ”をCIA側に抱き込めると判断したのだ。こうしてアリスは米露双方のスパイとしてロストフスキーに接近し、FSBとCIAに情報を提供し始める…。

マネロンがテーマと思いきや純愛映画だった!?

映画が公開されたのは2013年。リーマンショックから5年が経過し、本作を観ると証券ビジネスもまた活況を取り戻し始めている様子がわかります。金融サスペンスだと思って見始めたら思いのほか大人の純愛劇で驚きました。しかもフランス映画ということで、かなり濃厚なラブシーンがあります。

冒頭のスペイン国債に関するシーン以降は経済に関する描写が少なく、ヒロインのアリスがディーラーという設定でなくてもいいのでは…と思い始めたところで、舞台はモスクワに移り、ここから本筋のマネーロンダリングのくだりが展開されます。

金融や証券ビジネスに明るくないとストーリーが頭に入らないのですが、ロストフスキーが裏社会のビジネスで得た資金で金融商品を買いそれを表に出して堂々と商売し利益を得る仕組みを、アリスが考案したのだと思われます。

アリスの計画を聞いたロストフスキーは大いに満足し、“モイズ”から報告を受けたFSBの上層部も感嘆する描写を入れ込んだことで、間接的にアリスのマネーロンダリングの仕組みが優れたものだということが伝わるようになっていますが、思いのほか軽くさらっと描かれているため、ヒロインがディーラーであることやマネーロンダリングの調査という物語の発端部分がもっと活かせたのでは…と感じました。

物語の入り口の設定を活かしきれていないというか、こういう方向に話を持っていくのであれば、もう少し役柄や展開に整合性を持たせるべきではなかったかなと思います。結果的に、“愛は強し”というところにお話が着地するのですが、全体として練れていない感じがあり、「ちょっともったいない」という思いを多分に感じさせる映画でした。

ヒロインのモバイルがiPhoneでなくブラックベリーだった

ちなみに、時代を感じさせるといえば劇中のモバイル端末。ヒロインのアリスがオバマ元大統領も愛用したブラックベリーを使っています。セキュリティが強固なためiPhone登場後も政府関係者や金融関係者から根強い支持を受けていたブラックベリーでしたが、映画の公開がもう2~3年後なら間違いなくiPhoneが登場したでしょうね。

近年、すさまじいスピードで進化し続けるモバイル端末の描写は、映画の世界では時代の写し鏡になりつつあり、いつの頃の物語かがわかるようになりました。登場人物が全員ガラケーだったりしたら、一昔前の出来事だと自然に伝わってきます。誰もが持っているものだからこそ、時代の象徴となり続けるのですね。

文:村松健太郎(映画文筆家)

作品データ
『メビウス』
監督:エリック・ロシャン
出演者:ジャン・デュジャルダン、セシル・ドゥ・フランス、ティム・ロス、エミリー・ドゥケンヌ、ジョン・リンチ
2013年/フランス/103分

メビウス

村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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