隠蔽された環境汚染をめぐり独力で闘った弁護士の軌跡『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』

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©2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

米国のウェストバージニア州で起きた環境汚染をめぐり、一人の弁護士が十数年にもわたって巨大企業に闘いを挑んだ実話を映画化した『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』が12月17日から全国で公開されます。

主人公の弁護士ロブを演じるのは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のブルース・バナー/ハルク役で絶大な人気を博した実力派俳優マーク・ラファロ。共演の顔ぶれも豪華で、『レ・ミゼラブル』でアカデミー賞助演女優賞に輝いたアン・ハサウェイがロブの最大の理解者である妻サラに扮し、『ミスティック・リバー』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したティム・ロビンスがロブの威厳ある上司タープを演じます。

粘り強く調査を進め、愚直なまでに真実を追い求める弁護士の姿が観る者の胸を熱くする社会派リーガル・ドラマです。

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あらすじ

1998年、オハイオ州の企業法務事務所で働き始めた弁護士のロブ・ビロットは、ウェストバージニア州パーカーズバーグで農場を営む男性から調査依頼を受ける。大手化学メーカー、デュポン社の工場が出した廃棄物で土地を汚され、190頭もの牛を病死させられたというのだ。

農場主の剣幕に押されて廃棄物に関する資料開示を裁判所に求めたロブは、資料に頻出する“PFOA”という謎の言葉を調べるうちに、事態の深刻さに気付き始める。デュポンは発ガン性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流してきたのだった。やがてロブは7万人の住民を原告団とする集団訴訟に踏みきり、巨大企業を相手に自身の健康や家族、名誉のすべてを賭けた闘いを挑んでいく…。

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弱き者を救う弁護士を演じるマーク・ラファロ

不安と希望が交錯する作品である。

本作では企業が自らの利益を優先し、排出していた有害物質による影響を隠し続けた事実が示される。「環境汚染による健康被害はあったのか」。観る者が抱く不安は、すでに明らかになった環境汚染にとどまらす、まだ明らかでない未来にも及んでいく。

一方、驚きであり希望にも思えるのが、巨大企業を相手どったロブの闘いの軌跡である。

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そもそもロブは企業法務が専門で、企業を守る側である。そのロブが祖母の知り合いと名乗る農場主から思いがけぬ依頼を受け、膨大な開示資料を独力で読み込み、巨大企業の不正を突き止め、健康被害が立証された人々への賠償を勝ち取るまで、17年を要した。この間、環境汚染問題にかかりきりで弁護士収入は激減し、家計は火の車となり、職場で倒れて入院するまで健康を害した。

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プライベートでは熱心に環境保護家に取り組む一面もあるマーク・ラファロが、ロブの軌跡を報じたニューヨーク・タイムズの記事を読み、心を動かされたことが映画化の発端となったという。

プロデューサーを兼任して主演を務めたラファロは、ロブ本人に取材を行うなど丁寧な役作りで、ロブを正義のヒーローとしてではなく悩みや脆さを抱えた生身の人間として体現し、弱き者を救おうと奔走する弁護士を演じきった。

重いテーマをエンタテインメント作品として成立させる

本作の巧みな選曲にも触れておきたい。映画の序盤で、煙突からもくもくと煙を吐き出すデュポンの工場が映し出されるシーンでは、ジョン・デンバーが歌う1971年の大ヒット曲 “Take Me Home, Country Roads”(邦題『故郷に帰りたい』)がカーラジオから流れる。豊かな自然に囲まれた故郷、ウェストバージニアへの思いを綴る曲が、隠された環境汚染の存在とこれからの展開を暗示するかのようだ。

作品のラストに流れる “I Won’t Back Down” は「俺は諦めない」と繰り返すストレートな歌詞。ジョニー・キャッシュ(2003年没)が深みのあるバス・バリトンで訥々と歌う。何度も挫けそうになりながら、立ち直り闘い続けたロブの生き様にぴったりの選曲が光る。

それにしても、実話に基づく重い内容にもかかわらず、いや重いテーマだからこそ、エンタテインメントとして作品を成り立たせる腕前はさすがのものがある。

先ごろ公開されたジョディ・フォスター主演の『モーリタニアン 黒塗りの記録』も、弁護士が膨大な開示資料を丹念に読み解き、政府の人権侵害を暴いた実話の映画化だった。洋の東西を問わず、実力派の俳優たちが演じる社会派リーガル・ドラマがスクリーンをさらに賑わし、私たち観る者を魅了することを期待したい。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』
監督:トッド・ヘインズ(『キャロル』『エデンより彼方に』)
出演:マーク・ラファロ アン・ハサウェイ ティム・ロビンス ビル・キャンプ ヴィクター・ガーバー ビル・プルマン
2019年/アメリカ/英語/126分/ドルビーデジタル/カラー/スコープ/原題:DARK WATERS/G/字幕翻訳:橋本裕充
© 2021 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.
配給:キノフィルムズ
12月17日(金)TOHOシネマズ シャンテほかロードショー
公式サイト:https://dw-movie.jp/

ダーク・ウォーターズ
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堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


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