ジョニデが久しぶりにカメレオン俳優の本領を発揮『MINAMATA』

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©2020 MINAMATA FILM, LLC、©Larry Horricks

ジョニデが久しぶりに本領を発揮

――1冊の写真集を映画化する。その難題に挑んだのが9月23日に全国公開された映画『MINAMATA―ミナマタ―』です。

「ニューズウィーク」や「ライフ」で報道カメラマンを務め、世界を代表する写真家グループの「マグナム・フォト」にも名前を連ねたウィリアム・ユージン・スミス。彼が最後に残した写真集が「MINAMATA」でした。

主演のジョニー・デップはプライベートな事情から後述の通りメジャー作品に出られないという状況で、この意外な企画を見つけてきました。作品ごとに役柄への変貌ぶりが話題になるジョニー・デップですが、本作ではプロデューサーまで兼任するという入れ込みようを見せています。

アート系俳優だった頃のジョニー・デップを久しぶりに見ることができ、彼のカメレオン俳優たる演技力が存分に発揮された渾身の一作となりました。

ロケ地はモンテネグロ、日本人俳優が続々出演

主な撮影はモンテネグロで行われ、日本でのロケは行われていません。そのせいか映画『MINAMATA―ミナマタ―』と水俣市との間には微妙な距離感が生まれてしまい、水俣市からの先行上映会の名義後援を受けられないという少し残念な事態が起きてしまいました。

しかし、実際に本作を見ると、(不自然な部分がないわけではありませんが)日本と日本人を描くことに真摯に向き合った作品であることがわかります。

主要な日本人役には、真田広之、浅野忠信、美波、加瀬亮、岩瀬晶子、國村隼といった実力派俳優を揃え、特に海外作品を経験している面々がキャスティングされています。このことからも『MINAMATA―ミナマタ―』が日本だけでなく、世界中で公開されることを念頭に置いていることが見て取れます。ちなみに音楽は坂本龍一が担当しています。

©2020 MINAMATA FILM, LLC、©Larry Horricks

主人公のありようと重なるジョニー・デップのいま

「The Kids」というバンド名でギタリストを務めていたジョニー・デップは、友人だったニコラス・ケイジの薦めもあって俳優業をスタート。ホラー映画『エルム街の悪夢』でスクリーンデビューを飾ります。その後、テレビドラマ『21ジャンプストリート』でブレイクし、アイドル的な存在に。しかし本人はそのイメージを嫌って、個性派監督のインディーズ作品ばかり出るようになります。その中には後に盟友となるティム・バートン監督もいました。

1999年に愛娘のリリー=ローズを授かると、“親子でも楽しめる映画を”という思いから『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出演、一気にマネーメイキングスターとなります。

しかし、2016年頃から20歳以上年の離れたアンバー・ハードとの離婚裁判の中でジョニー・デップのDV(ドメスティック・バイオレンス)が大きな問題として表面化。素行不良で過去に何度もトラブルを起こしていたジョニー・デップですが、配偶者へのDVは許されることではなく、このことで、ハリウッドのメジャースタジオからお声がかからなくなり、ワーナーブラザーズの『ファンタスティック・ビースト』も降板させられてしまいます。

以降、ジョニー・デップは、独立系や欧州の作品以外には出演しにくい状況が続いています。皮肉なことですが、この現在のジョニー・デップの有様が劇中のウィリアム・ユージン・スミスの姿と重なり、何とも言えない現実味を帯びた演技となっています。

ウィリアム・ユージン・スミス自身も、映画で描かれる頃は第一線から退き、細々と自分の回顧展の準備をする程度。しかもその回顧展が終わると、周辺の機材をすべて処分してしまいます。あとは酒と痛み止めとともに生きていこうと決めた彼でしたが、後に私生活でもパートナーとなるアイリーン・美緒子から“水俣病”の話を聞かされます。

この作品の残念な場面は、ウィリアム・ユージン・スミスがなぜこのような心境に至ったのかを描き切れていないところです。沖縄戦に従軍し重傷を負った過去があり、日本に行くのはこりごりだと言っていた彼が、結果として遺作として残した写真集が「MINAMATA」であったことは数奇なめぐりあわせとしか言いようがありません。

アイリーンの存在も大きかったのでしょうが、この時のウィリアム・ユージン・スミスの心情をもう少し堀り下げたらなおよかったと思われます。

しかしながら、映画『MINAMATA―ミナマタ―』は”ジョニー・デップ”というビッグネームが入り口となり、日本の高度経済成長の陰の部分である“水俣病”について我々日本人を含め、世界中の人々が改めて知る機会を得られる、そんな貴重な映画に仕上がっています。

文:村松健太郎(映画文筆家)

<作品データ>
原題:Minamata
監督:アンドリュー・レヴィタス
出演:ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、キャサリン・ジェンキンス、ビル・ナイ 他
2020年製作/115分/G/アメリカ
配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム
公式サイト:https://longride.jp/minamata/
©2020 MINAMATA FILM, LLC ©Larry Horricks

村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

映画文筆家

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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