うまい話には裏がある『ウィザード・オブ・ライズ 嘘の天才~史上最大の金融詐欺~』

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金融界の帝王が逮捕された「バーナード・マドフ事件」

2008年12月に発覚した「バーナード・マドフ事件」は、アメリカ史上最大級の詐欺事件として今なお語り継がれている。というのも含み損ベースで650億ドル(約7兆円)にのぼる被害額の大きさもさることながら、犯人がナスダックの元会長であり、スピルバーグなど国内外の著名人や世界中の金融機関(もちろん日本の大手金融機関も含まれる)を顧客に持つ「金融界の帝王」と呼ばれた超大物だったからだ。

今回紹介する映画『ウィザード・オブ・ライズ 嘘の天才 ~史上最大の金融詐欺~』(2018年公開)は、大規模なネズミ講(正確には「ポンジ・スキーム」という)で、投資家や金融機関から巨額の資金をだまし取ったバーナード・メドフの逮捕後を描いた作品である。元ニューヨーク・タイムズの記者ダイアナ・ヘンリケスのノンフィクション小説を基に映像化した。

希代な詐欺師の表と裏の顔をロバート・デ・ニーロが怪演。なおバーナード・メドフは2021年4月に米ノースカロライナ州の連邦刑務所で死去した。

あらすじ紹介

2010年8月24日、ニューヨーク.・タイムズの記者であるダイアナ・ヘンリケス(本人出演)は、2008年12月11日に逮捕された金融詐欺犯、バーナード・マドフ(ロバート・デ・ニーロ)への獄中インタビューを敢行する。

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物語は2008年12月10日にさかのぼる。バーナード・L・マドフ証券会社の会長であるバーナード・マドフは家族を集め、自らが務めていた投資顧問業における大規模な投資詐欺を告白した。同社に務める二人の息子、アンドリュー(ネイサン・ダロウ)とマーク(アレッサンドロ・ニボラ)にはこれまで一切を明かさず、忠実な部下であるフランク(ハンク・アザリア)だけが入れる17階のオフィスで、バーナードは1987年10月のブラックマンデー以来、20年以上も投資詐欺を続けていたのだった。

バーナードは1週間で身辺整理し自首すると告白するも、翌日に息子たちによって通報を受けたFBIにより逮捕された。取り調べにおいてバーナードは単独犯であると主張するが、証拠の隠滅を図っていたフランクと何も知らずにバーナードの指示に従っていた弟のピーター(マイケル・クストロフ)も逮捕される。

保釈金を払い自宅軟禁に置かれたバーナードは、妻であるルース(ミシェル・ファイファー)と共に自宅での生活を余儀なくされた。連日マスコミが押し寄せ、懇意にしていた店からも冷たくあしらわれたルースは、生活に耐えきれないと睡眠薬での自殺を計画。バーナードも共に大量の睡眠薬を飲み眠りにつくが、悪夢にうなされただけで二人揃って生還する。

その後法廷に立ったバーナードは、すべての罪状を認め、禁固150年の懲役刑が確定した。独房に収監されたバーナードの面会に訪れるのはルースだけだったが、そのルースもまた子どもたちから連絡を拒否され、かろうじて受け入れてくれた姉の元へ身を寄せていた。

一方、アンドリューとマークもまた、マスコミや詐欺被害者からの苦情に悩まされていた。マークは精神的に追い詰められ、日々詐欺事件に関するネット記事を読みあさるが、その行為はさらにマーク自身を追い詰めることとなり、2年後に自ら命を絶つことになる。

さらに2014年には、アンドリューも悪性リンパ腫により死亡。バーナードはルースへ電話をかけるが、マークの死をきっかけにアンドリュー一家との交流を再開させていたルースは着信を無視し、最後には携帯電話を解約。バーナードは家族との繋がりを失ってしまう。

ダイアナの取材に淡々と応えていたバーナードだったが、インタビューの最後に「私の心は破綻しているか?」とダイアナへ問いかけるのだった。

「自分は悪くない」と主張

裁判の傍聴席で怒り狂う被害者たちへ謝罪の言葉を口にするバーナードだったが、ダイアナとのインタビューでは、自分は悪くないとばかりの言い訳ばかりを口にする。

「テッド・バンディと一緒にするな」「どのみち自首するつもりだった」「私は利用された」「財産の半分以上を託すなと警告した」「投資家は強欲だ」

自宅軟禁で自由を奪われたルースとの生活においても、まるで被害者のように振る舞うバーナードの姿からは、一切の反省は感じられない。不満と怒りを抑えられないルースをたしなめる口ぶりや、詐欺を知った息子たちからの反発に淡々と応える振る舞いは、すべてを他人事と捉えている様子が伺える。

その開き直りともいえる姿勢が家族を苦しめ、結果としてバーナードを孤立させた。2021年4月14日にバーナードは家族と疎遠のまま米ノースカロライナの刑務所でひっそりと獄中死を遂げたのだった。

美味い話には裏がある

本作では、バーナードの逮捕により資産をすべて失った人々の姿が描かれている。老後の資金をすべて失った者、自ら命を絶つ者、アンドリューをなじり掴みかかる者など、描かれる姿はさまざまだが、共通しているのは「確実な儲け」をうたうバーナードへすべての財産を託してしたということだ。

バーナードが語った「財産の半分以上を託すなと警告した」という言葉は詭弁のようにも聞こえるが、資産運用の面から考えると、全財産を預けるべきではなかったのは間違いないだろう。今もさまざまな詐欺が横行し、なけなしの財産を奪われる者は多い。

他人からもたらされた美味い話には、必ずといっていいほど裏があるものだ。どんなに経済的に困窮していたとしても、世間から高評価で信頼する人物であったとしても、甘い儲け話には疑ってかかる程度の慎重さは失いたくないものである。

<作品データ>
原題:THE WIZARD of LIES/邦題:ウィザード・オブ・ライズ 嘘の天才~史上最大の金融詐欺~
2017年・アメリカ(2時間13分)

ウィザード・オブ・ライズ 噓の天才

M&A Online編集部

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