パンデミック×トレインパニック映画『カサンドラ・クロス』
1976年にヨーロッパの当時のいわゆる西側の各国とアメリカの合作で作られた乗り物パニック映画にして、パンデミックモノでもある異色のサスペンス映画。監督は60年代からキャリアをスタートさせて後に『ランボー/怒りの脱出』『コブラ』などのシルベスター・スタローン主演の娯楽アクションを手掛けることになるジョルジュ・バン・コスマトスで、脚本も手掛けています。
バート・ランカスター(米)、ソフィア・ローレン(イタリア)、リチャード・ハリス(アイルランド)、エヴァ・ガードナー(米)、マーティン・シーン(米)、イングリッド・チューリン(スウェーデン)などの各国を代表するスター俳優が集結した“ザ・70年代”と言った感じのオールスター大作です。
ジュネーブにある国際保健機構を襲撃したゲリラが、細菌兵器に感染していることを知らずに大陸横断超特急に乗り込んでしまう。車内では感染者が続々と発生、速やかな乗客の救出が求められるものの、秘密の保持を優先したいアメリカ陸軍情報部は列車ごと抹消することを考える。
そして鉄道の行く先にある“カサンドラ・クロス”と呼ばれる老朽化した鉄橋を爆破し、1000人もの乗客ごと列車を消し去ろうとする計画が密かに進められていく。鉄道は刻一刻とカサンドラクロス鉄橋に迫っていく。果たして乗客たちの運命は…?
モンスター映画や災害を描いた作品は以前からありましたが、1960年代後半から「パニック映画」というジャンルの業界用語が定着するようになりました。70年代になると一気に花開き、72年の『ポセイドン・アドベンチャー』、74年の『タワーリング・インフェルノ』、74年からシリーズ化される『エアポート』などの良作が立て続けに製作されました。
75年にはスピルバーグ監督の『ジョーズ』の大ヒットを受けて、動物や自然由来のパニック映画も続々と作られるようになります。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、スティーブン・ソダーバーグ監督の『コンテイジョン(2011年)』や、日本映画『感染列島(2009年)』など、まるで現在のパンデミックを予見していたのではないか、と話題になりました。なかには角川映画の大作、『復活の日(80年)』まで引き合いに出す人もいました。
『復活の日』からさらにさかのぼること4年、当時としては異色中の異色のテーマといえる未知のウイルスの感染拡大(パンデミック)を描いたのが、この『カサンドラ・クロス(76年)』です。
乗り物パニック映画に何かしらのプラスαを、という構想があったのでしょうが、改めて『カサンドラ・クロス』を見ると、2016年の韓国映画『新感染ファイナル・エクスプレス』の原点としても楽しめる作品であることに気づきます。
時間的にも物理的にも、さらには心理的にも、と様々な側面から迫りくるリミットによって、クライマックスへの緊張感は否が応でも高まっていきます。
当時のオールスターキャストが演じる乗客の中にはそれぞれ事情を抱えている者もいて、映画自体はパンデミック以外の描写も多く、またゆったりとした牧歌的ともいえる序盤の演出や、“当時最高のテクノロジー”の描写が、今となってアナクロ感満載だったりするところは、流石に時代を感じさせます(当時のオールスター映画に欠かせないO・J・シンプソンも出演しています)。
ただし、感染源の特定や、濃厚接触者を追ったり、防護服を着た一団が徹底した封じ込め(鉄道のドアや窓を溶接して密閉)を行う場面は、私たちがこの1年の新型コロナの報道の中で何度も見聞きした事と共通点も多く、映画が作られた35年後の2021年の今、『カサンドラ・クロス』の未来図にゾッとする部分があります。(128分、1976年)
文:村松 健太郎(映画文筆家)
<作品データ>
『カサンドラ・クロス』
原題:THE CASSANDRA CROSSING
監督:ジョルジュ・パン・コスマトス
出演:ソフィア・ローレン、リチャード・ハリス、バート・ランカスター、マーティン・シーン、エヴァ・ガードナー
1976年/イタリア=イギリス、128分
ガイ・リッチー監督の映画『ジェントルメン』が本邦公開となりました。本作品を一言で表すとすれば、通好みの演技合戦が楽しい「群像クライムサスペンス」でしょうか。