2016年にブロードウェイで上演が始まり、第71回トニー賞®6部門(主演男優賞、作品賞、脚本賞、楽曲賞、助演女優賞、編曲賞)、第60回グラミー賞®(最優秀ミュージカルアルバム賞)、第45回エミー賞®(デイタイム・クリエイティブ・アーツ・エミー賞)を受賞したブロードウェイ・ミュージカル「Dear Evan Hansen(ディア・エヴァン・ハンセン)」が待望の映画化となりました。
高校生のエヴァン・ハンセン(ベン・プラット)は日常に不安を抱え、学校生活でも浮いた存在で、友人の一人もいない。ある日、セラピストからの宿題で自分宛てに“ディア・エヴァン・ハンセン…”から始まる手紙を書く。
しかし、その手紙はエヴァンが秘かに想いを寄せるゾーイ(ケイトリン・デヴァー)の兄のコナー(コルトン・ライアン)の元に渡り、そのまま持ち去られてしまう。
途方に暮れるエヴァン。しかし、さらに彼を戸惑わせる出来事が。なんとコナーが自ら命を絶ってしまったのだ。
コナーの手には、”ディア・エヴァン・ハンセン…”から始まる手紙があった。
コナーの両親はその手紙をコナーが書いたものと思い込み、多くの問題を抱えていたコナーにもエヴァンという親しい友人がいたと大いに喜ぶ。
エヴァンは本当のことが言い出せずに、”優しい嘘”をつき続ける日々が始まる…。
ブロードウェイ・ミュージカルを映画化する流れは昔からあり、定番では『サウンド・オブ・ミュージック』『王様と私』など。最近では、スピルバーグ監督のリメイク版が公開待機中の『ウェスト・サイド・ストーリー』があります。近年の成功作と言えば、『シカゴ』や『レント』でしょう。
アメリカのブロードウェイ・ミュージカルは、映画と並ぶ規模のエンターテイメント産業ということもあって、トニー賞受賞作品となると、すぐに映画化の企画が立ち上がります。
しかし、結果的に出来上がってきた作品は原作ミュージカルのファン、そして映画のファン双方を落胆させてしまうこともしばしばあります。
舞台と映画の大きな違いは、「ライブ感があるか」だと思います。映画館のスクリーンというフィルターが一枚入っただけで、見る側の感情移入の度合いや、音楽にのれるかが大きく変わってきます。他には、舞台ではよしとされている背景やアイテムの大胆な省略も、映画では細部まで描き切らなくては伝わりません。
ミュージカルを映画にそのまま移植しただけでは、演出と物語がズレてしまい、非常にちぐはぐな作品を見せられている気がするのです。
この不調和を解消するには、完成されたミュージカル作品を再構築し、そこに映画ならではの基本的要素を加えて映画化すると、舞台版を観た人も映画版から入る人も満足する作品が出来上がります。
舞台では横の動きしか表現できませんが、映画であれば引きの映像から大胆なズームといった、縦(あるいは奥行き)を生かした描写が可能になりますし、舞台では限界のある”モブシーン”も取り入れることができます。
いまではCGなどのデジタル特撮技術も取り入れられ、舞台では難しい”一瞬で場所が変わる”という瞬間移動の描写も可能です。
映画版『ディア・エヴァン・ハンセン』のスタッフには、『レント』『美女と野獣』の脚本家でもあるチョボスキー監督がメガホンを取り、舞台の原作者でもあるスティーブン・レヴィンソンが映画のために脚本をリライトしました。楽曲と製作総指揮には『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』のベンジ・パセック&ジャスティン・ホールというヒットメーカもクレジットされています。
キャストも実力派揃いで、ミュージカル版の『ディア・エヴァン・ハンセン』の初演エヴァンを演じたベン・プラットを再び映画の主役に据え、脇にはハリウッドで活躍するジュリアン・ムーアやエイミー・アダムスと言ったビッグネームを配することで、映画に華やかさを加えています。
作品では孤独を抱える人と、その周囲の人々の在り方や考え方など、現代社会が抱える闇や不安が描かれており、コロナ禍を経た今だからこそ胸に刺さる部分が多くあります。
『ディア・エヴァン・ハンセン』の初演は2016年ですが、今だからこそ見るべき映画とも言えるでしょう。年末に観たいおすすめの1本です。
文:村松健太郎(映画文筆家)/編集:M&A Online編集部
<作品データ>
原題:DEAR EVAN HANSEN
出演:ベン・プラット/エイミー・アダムス/ジュリアン・ムーア/ケイトリン・デヴァー/アマンドラ・ステンバーグ/ニック・ドダニ/ダニー・ピノ/コルトン・ライアン
監督:スティーヴン・チョボスキー
脚本:スティーヴン・レヴェンソン
楽曲:ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール
製作:マーク・プラット/アダム・シーゲル
製作総指揮:マイケル・ベダーマン/スティーヴン・レヴェンソン/ベンジ・パセック/ジャスティン・ポール
配給:東宝東和
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