名簿売買にベンチャー投資、『JOINT』が描いた裏社会

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©小島央大/映画JOINT製作委員会

私たちが気軽に登録している個人情報が、特殊詐欺などの犯罪の道具として社会の裏で売買されているーー。このショッキングな事実をリアルに切り取った映画『JOINT』が2021年11月20日より公開となります。監督の小島央太、主演の山本一賢ともに本作が長編映画のデビュー作品となります。

「キャリアより個性」を重視した日韓のスタッフ、キャストが集結。日本のダークサイドの“今”を鮮烈に焼き付けました。

あらすじ

出所後、東京に戻ってきた半グレの石神武司(山本一賢)は、以前から 得意だった個人情報の名簿を元手に、詐欺用の名簿ビジネスを再開する。

広告代理店から違法に引き出した顧客情報や、韓国人の友人ジュンギ(キム・ジンチョル)からもらった中古スマホの個人情報を合わせて名簿を作り上げ、後輩の暴力団構成員にその名簿を売り、ビジネスを成功させていた。

石神はその後、カタギの親友ヤス(三井啓資)から投資を勧められ、真っ当に生きたいと願っていた石神はベンチャービジネスに介入し、ベンチャー投資家へと転身を図る。資金不足の若手クリエイターに出資するなど、やがて事業は軌道に乗り出す。

いよいよ裏社会から足を洗おうとする石神だったが、その矢先に大手取引先から石神の過去が問題視され、「石神を外すように」と条件が出されてしまう。

一方、関東最大の暴力団・大島会は、組を破門された武闘派たちが決起した壱川組から一大抗争を仕掛けられる。かつて大島会とつながりのあった石神も壱川組から警告を受け、カタギかヤクザか、大島会か壱川組か、自分自身の行く先に選択を迫られる。やがて抗争は激化し、国際社会で暗躍する外国人組織・リュードも接近しはじめる。

石神は取り返しのつかない事件と対峙することになり・・・。

移り変わる日本の裏社会の描かれ方

何事にも表があれば裏がある。表で生きていけない人間は、自然と裏に回ることになる。その結果、いつの時代にも裏側(=ダークサイド)は存在し続けるのです。

裏社会をテーマにした映画といえば、かつては鶴田浩二や高倉健が演じた唐獅子牡丹の世界を描いた、任侠映画がありました。その後、深作欣二監督によって『仁義なき戦い』シリーズという、実録路線に変わっていきます。“仁義なき”という言葉は、裏社会の在り方が劇的に変わったことを端的に表す言葉と言えるでしょう。

2000年代に入ると、裏社会の中心であった暴力団に対して法的な引き締めが厳しくなっていきます。この辺りは今年1月公開の『ヤクザと家族 The Family』(綾野剛主演)を見るとよくわかります。

そんな変遷を経て、新たなフェーズに誕生したのが本作『JOINT』です。日本と韓国のダークサイドは密につながっているようで、北野武監督の『アウトレイジ 最終章』でも、似たような描写がありました。

リアルな名簿作り

本作でキー(鍵)となるのが名簿です。主人公の石神は広告代理店の伝手で得た「広くて浅いだけの情報」を、裏側の伝手を使い、「密度の濃い、精度の高い名簿」に仕上げていきます。

固定電話ではすぐに特定されてしまうため、いわゆる“飛ばし”の携帯を片手に都内を車で移動しながら、名簿の情報を補完していく様は、生々しさを感じさせます。また、法規制の網の目を抜けようと、合法ビジネスに活路を見出そうとするあたりもリアルです。

リアリティを作り上げたキャストの無名性

『JOINT』は4か月もの撮影期間を費やして作られています。これはメジャー映画でも稀な体制で、よほどの覚悟と確信がなければこれだけの期間はかけないでしょう。

一方で、出演者は俳優のキャリアを重視せず、ルックス(外見)と個性を最優先に400人以上のオーディションから選ばれました。集まったのは無名と言っていい面々。しかし、この無名性が物語とキャラクターに妙な色を付けず、映画にリアリティを与えています。

さすがオーディションを勝ち抜いただけのことはあり、キャストの面々の演技力と存在感に圧倒されます。密度と完成度の高さを感じることができ、見応えのある作品に仕上がっています。

『JOINT』は必ずしも万人向けの映画ではありませんが、先入観にとらわれず劇場へ足を運んでほしい一本です。

文:村松健太郎(映画文筆家)

作品データ
『JOINT』
監督:小島央大
キャスト:山本一賢、キム・ジンチョル、キム・チャンバ、三井啓資、樋口想現
配給:イーチタイム
2020年製作/118分/G/日本
2021年11月20日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
公式サイト:https://joint-movie.com/

©小島央大/映画JOINT製作委員会

村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

映画文筆家

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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