制服姿の女性社員たちが結束して社内のトラブルを解決するストーリーといえば、かつての人気ドラマ『ショムニ』(フジテレビ)が思い出されるが、実話を基にした話題作『サムジンカンパニー1995』も、その系譜に名を連ねそうだ。
補助職として単調な業務に甘んじていた女性社員たちが、ふとしたことから自社の不正を見つけ、調査を進めるうちに自分たちの会社が買収のターゲットになっている事実を突き止める。自分は何を求めて働くのか、会社は誰のものかを自問しながら、会社を食い物にしようとする黒幕と彼女たちは対決する。
企業不祥事が絡んだ買収劇というシリアスなストーリーを、随所で笑わせるコメディタッチで描き、グローバル化に社会全体が踊らされた当時の世相を鋭く突く、上質の“お仕事エンタテインメント”である。
舞台は金泳三大統領によってグローバル元年と位置付けられた1995年の韓国・ソウル。街中でも会社でも英語熱が盛んな時代だった。サムジン電子に勤める生産管理3部のジャヨン、マーケティング部のユナ、会計部のボラムら高卒の女性社員は実務能力は高いが、仕事はお茶くみや書類整理など雑用ばかり。しかしそんな彼女たちにもチャンスが訪れる。TOEIC600点を超えたら「代理」に昇進できるという会社の方針が出されたのだ。
ステップアップを夢みて英語を学ぶ彼女たちだったが、偶然、自社工場が有害物質を川に排出していることを知る。事実を隠蔽する会社を相手に解雇の危険を顧みず、力を合わせ真相解明に向けて奔走する3人は、自社の買収の危機を知り、やがてその黒幕にたどり着く。
彼女たちの部署の垣根を越えた友情、会社を守りたいと思う愛社精神、そして不正に立ち向かう正義感に勝機はあるのか?
1995年と言えば、今から26年前。映画の舞台であるサムジン電子で、ジャヨンたち高卒制服組は朝7時30分に出勤してフロアを掃除、書類の整理をこなして、紙コップのインスタントコーヒーを社員それぞれの砂糖・ミルクの好みを反映して作る。
社員が出勤してきたら朝の一斉体操があり、デスクでたばこをスパスパ吸っている社員も多数…。四半世紀を経て職場から一掃されたものもあるが、パソコンが不得手なおじさん社員にボラムたち若手社員が丁寧に指導する様子など今と変わらぬ光景もあり、複雑な気持ちにさせられる。
単純な仕事しか任されない悔しさから、彼女たちが時おり漏らす言葉がいい。例えばこんなフレーズだ。
ー「私だって書類整理やお茶くみばかりじゃなく、仕事がしたい!」(ジャヨン)
ー「30歳近くになるのに『女の子』と呼ばれるのもイヤ。人の顔色をうかがって、いつも笑っている自分もイヤ。本当は泣きたい」(ボラム)
ー「私の時間の大半を占める会社の仕事が意味のあるものであってほしい。人の役にたってほしいのです」(ジャヨン)
彼女たちが発する本音のひと言が私たちの心に響き、働くことの意味や喜びについて考えをめぐらせてしまう。真摯なメッセージを直球で投げ込んでくる映画でもある。
自社工場が垂れ流す有害物質が周辺地域に被害を与えた事実を告発しようとするジャヨンたちは会社側の隠蔽工作に遭うが、会社の姿勢に疑念を抱いた役員や社員の助力を得て、情勢を巻き返していく。その過程で、この環境汚染に隠された本当のねらいと、買収工作を画策する黒幕の正体が明らかになっていく・・・。
ネタバレになるので多くは書けないが、大団円に至るストーリー展開は実にスリリング。ぜひ、劇場に足を運んで結末を確認してほしい。
文:堀木 三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)
<作品データ>
『サムジンカンパニー1995』
原題:삼진그룹 영어토익반
字幕翻訳:小西 朋子
出演:コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス
監督:イ・ジョンピル
配給:ツイン
提供:ツイン、Hulu
2020年/韓国/110分/シネスコ/5.1ch
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7月9日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
公式サイト:https://samjincompany1995.com/
『ピエロがお前を嘲笑う』は、2014年にドイツで公開され大ヒットを記録したサスペンス映画です。トリッキーな仕掛けが満載でエンディングについてはアッと驚くこと間違いなしの展開が待っています。