アパレル業界の光と闇をブラックな笑いで包む『グリード ファストファッション帝国の真実』

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©2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

2021年6月18日公開の映画『グリード ファストファッション帝国の真実』は、イギリスを代表するアパレル企業「アルカディア・グループ(ARCADIA GROUP)」のオーナー、フィリップ・グリーン(Philip Green)をモデルに、欲望=Greedに憑りつかれた男の栄枯盛衰を描く社会派ドラマ。資本主義社会を英国人特有のブラックユーモアで切り込んだ作品です。

ちなみに「トップショップ(TOPSHOP)」などを擁していたアルカディア・グループは度重なる経営難の末、2020年11月に経営破綻しました。

監督は『マイティ・ハート愛と絆』『キラー・インサイド・ミー』のマイケル・ウィンターボトム。主演はウィンターボトム監督と7度目のタッグとなる『ナイトミュージアム』シリーズのスティーブ・クーガン。ハリー王子をはじめ世界のセレブリティ33名が登場し、本人役にベン・スティラーやコリン・ファース、キーラ・ナイトレイ、キース・リチャーズなど11名が実際に出演しています。

あらすじ

リチャード・マクリディ(スティーブ・クーガン)はファストファッションの世界でブランドMONDAを成功させ、巨万の富を築き上げ、小売業界のモーツァルトなどと持ち上げられ得意満面です。しかし彼の欲望は留まることを知らず、自身の60歳の誕生パーティーをエーゲ海のミコノス島で盛大に開催することに。

さらに、リチャードはテレビなどへの露出を増やし、ライターを雇いこみ、これまでの武勇伝や自慢話を伝記にしてまとめようと計画します。

丁度その頃、中東からの多くの難民がミコノス島に押し寄せていました。リチャードの誕生パーティー当日を迎えますが、事態は思わぬ方向に・・・

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経済・ビジネスの要素も強い作品

リチャードの金満家ぶりは凄まじく、自分の誕生日のためだけに円形闘技場を作って剣闘士の闘いを再現しようとしたり、エルトン・ジョンやコールドプレイにパフォーマンスをオファーしたり。自身や家族に加えて、パーティーのスタッフ、参加者にまで古代ローマ人の衣装を着させるなど、やりたい放題です。

傲慢さも一級品で、公共のビーチにいる難民を見て、「パーティーの景観を乱すから立ち退かせよう」というようなことを平気で口にします。

俳優・声優・クリエイターとして活躍するスティーブ・クーガンは英国を代表するカメレオン系俳優の一人で、コメディからシリアスまで何でもこなしますが、今回は傲慢な大富豪リチャードを見事に演じ、観客を心から嫌な気持ちにさせます。

ウィンターボトム監督の演出によって、お抱えライターがリチャードの関係者にインタビューして回る部分もあるので、まるでドキュメンタリー映画を見ているような気になります。

リチャードのキャラクター造形に実在の人物ーファストファッション界の帝王、フィリップ・グリーンの半生ーを基にしていることもあって、なんとも言えない生々しさがあります。

作品では、労働力の安い海外に縫製作業を任せてコストを圧縮したり、買収したブランドで失敗したり、企業買収の裏側を語る部分などはまるで経済映画を見ているような気持ちになることも。

リチャードの誕生パーティー当日に思いもよらない出来事が起こり、アッと驚かされますが、その一方でこの映画自体がスタートからずっとはらんでいた“破裂寸前の風船を見ているような不安定さ”が現実のものになってしまったという何か取り返しのつかない出来事を見ている気分にもなります。

リチャードの傲慢さとそれに巻き込まれていく人たちの苦労する姿、そして、リチャード自身も抗えない“運命のうねり”のようなものをこの映画で切り取っています。

ラストに世界のファッションブランドの現状を示し、華やかな世界の裏側にある非情なまでの現実を我々に突き付けて映画は終わります。(104分、2021年6月18日公開)

文:村松健太郎


<作品データ>

『グリード ファストファッション帝国の真実』
原題:Greed
監督&脚本:マイケル・ウィンターボトム
出演:スティーブ・クーガン、アイラ・フィッシャー、シャーリー・ヘンダーソン、エイサ・バターフィールド
配給:ツイン
2019年製作/104分/PG12/​イギリス
http://greed-japan.com/
©2019 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION

グリード公式サイト

村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

映画文筆家

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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