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『ジェントルメン』で犯罪映画に原点回帰したガイ・リッチー監督が『ワイルド・スピード』シリーズなどでトップスターとなったジェイソン・ステイサムと16年ぶりにコンビを組みます。
ごく平凡なデンマークの元料理人が北朝鮮の闇取引のネットワークに潜り込み、武器取引の実態を暴いたドキュメンタリー映画『THE MOLE(ザ・モール)』が10月15日に公開される。
本作は10年にわたる潜入期間に欧州、米国、アジア、そしてアフリカなど計14か国で撮られた、隠し撮りを含む迫真の映像で構成される。監督は前作『誰がハマーショルドを殺したか』で数々の賞に輝いた、デンマーク人ジャーナリストのマッツ・ブリュガー。
あまりに衝撃的な内容にドキュメンタリーであることを疑う声が続出したという本作は、緊迫感みなぎるスパイ活動の実録であり、極上のサスペンス・エンタテインメント映画である。
事の始まりはブリュガー監督に届いたFacebookのメッセージだった。差出人である元料理人ウルリク・ラーセンは謎に満ちた独裁国家、北朝鮮の真実を暴くためのドキュメンタリーを作ってほしいと持ち掛けてきた。ブリュガーは返答を濁したが、自らの意思でコペンハーゲンの北朝鮮友好協会に加入したウルリクは古参会員らの信頼を得て協会内でスピード出世を果たしていった。
北朝鮮のピョンヤンでKFA(朝鮮親善協会)会長のアレサンドロという怪しげなスペイン人と出会い、違法な投資ビジネスに関与していくことになった。ウルリクから報告を受けたブリュガーは、元フランス軍外人部隊のジムという男に架空の石油王ジェームズを演じさせ、ウルリクの潜入調査を裏側から指揮していく。
やがてウルリクとジェームズは、アレハンドロの口利きで北朝鮮の要人や武器商人らと接触して商談を重ね、闇取引の全貌を隠しカメラに収めていくのだった。
本作は10年にわたる潜入期間にウルリクが撮影した映像素材に、ブリュガー監督がナレーションやインタビューを追加して完成させた。
マッツ·ブリュガー監督といえば、これまで一筋縄ではいかないテーマに対して大胆な潜入取材を敢行して解き明かしてきた。例えば、第26回サンダンス映画祭審査員賞を受賞した『ザ·レッド·チャペル』(2009年)では、文化交流の名目で2人のコリア系デンマーク人コメディアンとともに北朝鮮入りし、2人が舞台に立つまでの様子を追うことで北朝鮮の現状を浮かび上がらせた。ブリュガー監督が北朝鮮を怒らせ入国禁止となった問題作だが、ウルリクはこの作品を見て、ブリュガーにアプローチしたという。
潜入調査の経緯が生々しく伝えられる。ウルリクは偽の石油王ジェームズをアレハンドロに引き合わせて武器取引を持ち掛け、2度目のピョンヤン訪問で武器工場の社長らと北朝鮮の国外に武器や覚せい剤を製造する工場を建設する契約をまとめた。
その後の展開も驚きの連続だ。秘密工場の建設地がアフリカのウガンダに決まり、「秘密工場の建設」「北朝鮮の武器取引」、「北朝鮮への石油の密輸」という三角取引が考案される。同取引の契約を北朝鮮の特使らと締結したジェームズは、欧米の諜報機関も入手できなかったとされる機密資料を武器商人から手渡された。本作の山場である。ぜひ、映画館で確認してほしい。
前作の『誰がハマーショルドを殺したか』でブリュガー監督は、ドキュメンタリーでありながらフィクションともとれるような手法で観客を“真実”へ誘った。ある時は隠された事実を暴いたように見せ、ある時は胡散臭いでっちあげのようにも見せ、全体として確証を抱かせない。危険な取材を続けるための術だと思えば頷けるが、観客は途中で放り出されたような気分になった。
その点、本作は直截だ。北朝鮮の闇を暴くことでストーリーは一貫している。闇取引のもようを収めた映像は隠しカメラだけでなく、記録役として北朝鮮に認知されたウルリクが撮影したものさえあった。
カメラのアングルから、誰が撮影した映像なのかと疑問に感じる場面もある。そんな観る側の反応は織り込み済みなのだろう。潜入調査の過程で撮影された映像は専門家の鑑定をおこない、「100%ノンフィクションだ」とブリュガー監督は言明している。
国連とEUが本作の告発を受け、国際的な調査に乗り出す動きを見せているとも言われる。それでも本作を目の当たりにする観客はこう考えてしまうだろう。「これは本当にドキュメンタリーなのか?」と。
つくづく観客を落ち着かせない監督である。
なお本作は、2020年秋に英国BBCと北欧のテレビ局で放送され、21年2月に『潜入10年 北朝鮮・武器ビジネスの闇』のタイトルでNHK-BSでも放送された内容に未公開シーンを加えたものである。
文:堀木 三紀(映画ライター)
<作品データ>
『THE MOLE(ザ・モール)』
監督・脚本:マッツ・ブリュガー
製作総指揮:ピーター・エンゲル
出演:ウルリク・ラーセンほか
2020年/ノルウェー、デンマーク、イギリス、スウェーデン/120分/DCP
協力:NHKエンタープライズ
配給:ツイン
© 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS
2021年10月15日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
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