実話をもとに制作【イ・ジョンピル監督インタビュー】『サムジンカンパニー1995』

alt
© 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

女性社員が結束して暴いた会社の不正の裏に陰謀が蠢く
『サムジンカンパニー1995』イ・ジョンピル監督インタビュー

1990年代の韓国・ソウルの大企業を舞台に、女性社員が結束して会社の不正に立ち向かう姿を描いた話題作『サムジンカンパニー1995』が7月9日から全国で公開される。

実話を元にしたテーマはシリアスだがストーリー展開はあくまでコミカルタッチ。制服姿の女性社員たちがあの手この手で会社と渡り合う様子はドラマ『ショムニ』(フジテレビ)を想起させ、随所で笑わせる一方、グローバル化に社会全体が踊らされた当時の世相を鋭く突く。

そんな上質の“お仕事エンタテインメント”のメガホンをとったイ・ジョンピル監督に、映画のモチーフや見どころを伺った。

<あらすじ>

グローバル化で社会が激変した1990年代の韓国。大企業サムジン電子に勤務する高卒の女性社員たちは、実務能力に長けていても任される仕事といえばお茶くみや書類整理ばかり。しかしそんな彼女たちにもチャンスがやってくる。会社の方針で、TOEIC600点を超えたら「代理」という肩書を与えられるというのだ。

ステップアップを目指して英語の勉強に励む女性社員のひとりであるジャヨンはある時、会社の工場から汚染水が川に流出しているのを目撃する。証拠を隠蔽しようとする会社。ジャヨンと同僚たちは解雇の危険も顧みず、力を合わせて真相解明に向けて奔走する。

© 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

「シリアス」と「コミカル」を織り交ぜた構成に

――本作は90年代の韓国の大企業が舞台です。当時の韓国企業は英語教育に熱心だったのでしょうか。

90年代の韓国ではグローバル化が叫ばれていて、とにかく「英語を習え」という風潮がありました。

大企業では映画と同じように高卒社員対象に英語のクラスが開設され、脚本家のホン・スヨンさんは実際に、ある企業の英語のクラスで講師をしていたそうです。そのときに教えていた社員たちの授業に臨む姿勢がとても素晴らしく、その経験をもとに構想を練って、会社を告発するシナリオを書いたそうです。

私が監督を引き受けたときにはすでに初稿ができており、とてもいい内容でした。ただ、なぜこういうことが起きているのだろうかで終わっていたので、「解決に導きたい、そして弱者が勝利する姿が見たい」と思い、もう1人の脚本家のソン・ミさんとも話し合って、シリアスな部分とコミカルな部分を織り交ぜた構成にし、実際の企業買収なども盛り込んでいきました。

実際に起きた環境汚染事件をモチーフに

――1991年斗山電子が洛東江に有害物質であるフェノールを流して問題になった事件をモデルにしているとのことですが。

初稿では2007年に鉄鋼会社が起こした同じような事件がモチーフになっていて、当初は「土壌汚染」という設定でした。

環境汚染の問題は時間と場所に関係なく、どこにでも起こり得ることです。環境汚染問題を通じて企業が抱えている問題にも迫っていきたいと思い、さまざまな資料をあたりました。すると土壌汚染よりも「水質汚染」の方が多かったのです。水俣病について撮ったユージン・スミス氏の「MINAMATA」という写真集なども参考にしました。

環境汚染に関しては、何か間違っていると思いながらも、「声を上げるのは大変だし、このままでもいいのではないか」と考える気持ちが人々の中にあったと思います。それによって心の中にも丸い大きな穴が空いてしまったのではないでしょうか。

映画を見ていただくと前半に下水溝が出てきます。それが心の中にぽっかり空いた丸い穴のイメージとも結びつくと思い、1991年に起きた斗山電子のフェノール流出による水質汚染事件は有名だったので、モチーフに値すると思いました。

© 2021 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.

95年に時代設定、2年後の韓国通貨危機も意識

――時代設定を1995年としたのはなぜでしょうか。 

1995年は韓国にとってグローバル化元年と言われており、当時はどこにいってもグローバル化という言葉が掲げられていました。例えばテコンドーのグローバル化、韓国原産の犬種の一つである珍島犬のグローバル化、教育のグローバル化など、とにかく何から何までグローバル化だったのです。

グローバル化が素晴らしいことのように言われていましたが、メリットがあれば、必ず裏にはデメリットもある。それは何か。とても気になっていたので、それを探りながら映画を作っていこうと思い、1995年を時代設定として選びました。

――2年後の韓国通貨危機(1997年)は念頭に置いていたのでしょうか。

最初は1997年の通貨危機を意識していませんでした。しかし作っていくうちに意識せざるを得なくなったのです。

IMFによる韓国救済ですべてが完全に壊れたと思われがちです。映画を見終わったとき、「主人公たちは2年後に解雇されるのではないか」という心配を持たれるかもしれません。

確かに韓国は通貨危機によって辛い経験をしましたが、それを乗り越えていった人たちもいました。主人公たちが勝利する姿を描くことで、通貨危機になっても彼女たちならまた立ち上がれるだろうと想像してもらえるのではないかと考えました。

外資によるM&Aを要素に取り入れてストーリーを展開

――本作では「M&A」もキーワードになっています。日本では1996年頃から第3次M&Aブームが始まりましたが、1995年当時、韓国でも外資によるM&Aはかなり行われていたのでしょうか。

私は専門家ではないので推測にすぎないのですが、韓国でもM&Aはいくつかあったと思います。ただM&Aは国際競争力をつけるなど会社にとってメリットがあるものの、一方で犯罪に結びついてしまうこともある。私のように映画を作っている立場からすると、良い方向でM&Aが進行するよりも、犯罪に流れてしまうケースに関心を持ちがちです。

――外資の参入で韓国経済のグローバル化が進んだのでしょうか。

本作は英語がモチーフになっていますし、キーワードがグローバル化でしたから、犯人もグローバルであるべきだと思い、外資によるM&Aを取り入れて、話を膨らませていきました。その際に、2001年に米国で起きたエンロン事件を参考にしました。

――最後に読者に向けてひとことお願いいたします。

この映画を準備するためにたくさんの本を読みました。その中の1冊が危機に陥った企業を救うのは末端社員だという本。タイトルが面白くて読んだのですが、この映画でもさまざまな立場の末端社員が、みんなで協力し合って会社を救います。教訓的なところもありますが、楽しめる作品になっていますので、ぜひ映画館でご覧ください。

取材・文:堀木 三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<プロフィール>
イ・ジョンピル監督
1980年生まれ。ベルリン国際映画祭Generationで上映された短編映画『火をつけろ』(2007年 脚本/監督)などを経て、『全国のど自慢』(2013年)で長編映画デビュー。『建築学概論』のペ・スジをヒロインに迎え、禁忌を破りパンソリの歌い手となった女性と、彼女を育てた師匠の数奇な運命を描いた『花、香る歌』(2015年 脚本/監督)が国内外で話題になった。

『サムジンカンパニー1995』
原題:삼진그룹 영어토익반
字幕翻訳:小西 朋子
出演:コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス
監督:イ・ジョンピル
配給:ツイン
提供:ツイン、Hulu
2020年/韓国/110分/シネスコ/5.1ch
(c)2020 LOTTE ENTERTAINMENT & THE LAMP All Rights Reserved.
7月9日(金)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
公式サイト:https://samjincompany1995.com/

堀木 三紀 (ほりき・みき)

映画ライター/日本映画ペンクラブ会員

映画の楽しみ方はひとそれぞれ。ハートフルな作品で疲れた心を癒したい人がいれば、勧善懲悪モノでスカッと爽やかな気持ちになりたい人もいる。その人にあった作品を届けたい。日々、試写室に通い、ジャンルを問わず2~3本鑑賞している。(2015年は417本、2016年は429本、2017年は504本、2018年は542本の映画作品を鑑賞)


NEXT STORY

未曽有の経済危機!韓国政府は何をしたのか?『国家が破産する日』

未曽有の経済危機!韓国政府は何をしたのか?『国家が破産する日』

2019/10/30

11月8日公開予定の映画『国家が破産する日』は、韓国の通貨危機を「通貨政策チーム長」「金融コンサルタント」「町工場経営者」の視点で描いた作品。IMFの支援で国家破産は回避したものの、貧富の差や非正規雇用といった社会問題を抱えることとなった。