『ビリーブ 未来への大逆転』は、1970年代の米国で根深い男女差別の解決に挑んだ女性弁護士の姿を描く法廷ドラマ。後に最高裁判事まで上り詰めるルース・ベイダー・ギンズバーグの若き日の戦いを、『博士と彼女のセオリー』のフェリシティ・ジョーンズが軽やかに演じる。
1956年、ルース・ギンズバーグ(フェリシティ・ジョーンズ)はハーバード法科大学院に入学した。500人を超える男性に対し、女性はわずか9名。女子トイレすら用意されておらず、講義でも「女性だから」という理由で相手にされない中、ルースは首席で卒業を果たす。
しかし女性であることを理由にルースを雇い入れる法律事務所はなく、就職活動は難航。ルースは止む無く大学教授の道を選び、講義で男女平等を説く日々を送る。
弁護士への夢を捨てきれないルースへ税務を専門とする弁護士の夫・マーティン(アーミー・ハマー)はひとつの訴訟に関する資料を見せる。それは、働きながら母親を介護するチャールズ・モリッツ(クリス・マルケイ)に対し、チャールズが未婚の独身男性であるという理由で、雇い入れた介護士費用の所得控除を認めないというものだった。
長年現行法が性差別的であると訴え続けてきたルースは、チャールズの訴訟を通じた男性差別の是正が男女平等への第一歩に繋がると考え、この訴訟の弁護に乗り出す。
弁護士としての実績も答弁の経験もないルースは、アメリカ自由人権協会のメル・ウルフ(ジャスティン・セロー)、かつて多くの男女平等訴訟に挑んだ”伝説の弁護士”ドロシー・ケニオン(キャシー・ベイツ)らの協力を得て、チャールズ・モリッツ対国税長官の訴訟を提起。国を相手取った男女平等を問う裁判へと挑む。
ルースに先駆けて女性の権利を求めたドロシーは、数々の裁判で「女性差別は合憲」という結論と共に敗訴を繰り返していた。
劇中で描かれた法曹界の男性陣は、まさに男女差別を是とする人々。ケニオンはアメリカの法制度に失望し、ルースが協力を求めて訪問した際も「まだその時期ではない」と、男女差別と戦う意欲を失っていた。
ルースが選択した「男女平等」の戦略は、ケニオンに言わせれば変化球なのかもしれない。しかしルースは真っ向から勝負せず、男女双方への利益を説いたことで「100年の先例」を乗り越えたのだった。
夫・マーティンが勤める法律事務所のパーティの帰り道、ルースは次期共同経営者に指名されたマーティンに対し「自分が弁護士になりたかった」と思いの丈をぶつける。
ハーバード法科大学院を首席で卒業するも、女性だからという理由で弁護士になれなかったルースは、どれだけ優秀な学生を法曹界に送り出そうと、叶えられない自らの望みに苦しみ続けていた。
幸いなことにルースは夫が導いたチャールズの案件を通じ、弁護士として法廷に立つことができたのだが、1970年初頭はウーマン・リブ運動まっただ中。新しい時代を求める女性が立ち上がり始めた一方、男女の差別に固執する男性も少なくなかった。
劇中の舞台から50年が経過し、男女差別はなくなったのだろうか。日本では1985年に制定された男女雇用機会均等法だが、最近では2020年に職場でのパワハラ防止措置が義務付けられるなど、度々の改正を経て「男女差別は良くない」という風潮が浸透してきている。
とはいえ、つい最近も東京2020オリンピックで金メダルをかじった河村たかし名古屋市長の女性蔑視発言が話題になったばかりだ。改めて我が身を顧みながら観るもよし、男女問わず本作から見習うべき点は多い。
<作品データ>
原題:ON THE BASIS OF SEX/邦題:ビリーブ 未来への大逆転
2018年/アメリカ/120分
https://gaga.ne.jp/believe/
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