『ワイルド・スピード』で成功したメディアフランチャイズ戦略とは

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©2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

『ワイルド・スピード』シリーズで成功したハリウッドの「メディアフランチャイズ戦略」とは

全米でコロナ後最大のヒット作に

豪快なカーアクションで見る者の心をつかみ続ける、大ヒットシリーズのワイルド・スピード。9作目となる最新作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が新型コロナウイルス感染拡大による度重なる公開延期を乗り越え、2021年8月6日に日本で公開されます。

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主演のヴィン・ディーゼル以下、お馴染みのレギュラーメンバーが揃って登場。ドウェイン・ジョンソンとジェイソン・ステイサムは登場しませんが、ドウェイン・ジョンソンと同じ人気プロレスラーという出自を持つジョン・シナがヴィン・ディーゼル演じるドミニクの弟のジェイコブとして登場するほか、死んだと思われていた人気キャラクターのハン(サン・カン)が復活するなどサプライズに満ち満ちており、すでに公開済みの北米や中国ではコロナ後で最大級のヒット作品となっています。

ワイルド・スピードは数ある映画シリーズの中でも破格の成功を記録し続けており、すでに完結編となる10・11作目(二部作)の制作が決まっているほか、新たなスピンオフ映画の企画も出ています。

21世紀以降、ワイルド・スピード以外でここまで成功を収めている映画シリーズというと、『アベンジャーズ』の活躍を描く“MCU”(=マーベル・シネマティック・ユニバース)ぐらいしかないのではと思われます。

「メディアフランチャイズ戦略」とは

日本ではあまり知られていませんが、ワイルド・スピードは「メディアフランチャイズ戦略」の成功例として、しばしば取り上げられています。

メディアフランチャイズとは、知的財産(IP)のライセンスを活用したビジネス戦略の一つです。語感からどちらかというと広告戦略のメディアミックスに内包されているようなイメージを持たれるかもしれません。同様のビジネスは日本でも展開されていて、人気のコミックや小説から派生してドラマ化や映画化、舞台化やゲーム化、ノベライズ、コミカライズ、さらにはフィギュアやアパレルなどに展開されるというようなことがとても多いです。実際に皆さんの頭の中にも具体的なタイトルがすぐにいくつか浮かぶのではないかと思います。

筆者が考える「メディアミックス」との違い

広告やマーケティングに詳しい人なら複数のメディア(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ・インターネットなど)で広告展開する「メディアミックス」の方が、なじみがあるかもしれません。

ビジネスについては門外漢な自分が断定的なことを言って誤解を招いても問題がありますし、日本においては「メディアフランチャイズ」という言葉が定着していないこともあるので、あくまでも一つの見方として捉えていただきたいのですが、「メディアミックス」と「メディアフランチャイズ」を比較した場合、「メディアフランチャイズ」の方が基幹となるコンテンツ(いわゆる原作)と展開先のメディアがより相互に作用し合い、影響を与え合っていると言えるでしょう。

つまりメディアミックスは、原作から次の展開先のメディアへの矢印は「原作→メディア」と一方通行になりがちですが、メディアフランチャイズの場合は「原作⇔メディア」と双方向の矢印になります。

ハリウッド「メディアフランチャイズ」の成功例

ワイルド・スピードは、短編映画、ドラマ、ゲーム、アトラクションなど多方面にシリーズ展開されており、これが直近のメディアフランチャイズで成功例といわれる所以です。

また一般的には、前述のように原作となる小説やコミックがあって、映画はチャネルの一つに過ぎないことが多いのですが、ワイルド・スピードの場合は、映画発信で拡がりを見せているところに特徴があります。映画発信となると、他にはスター・ウォーズくらいしか思いつきません。

アメコミに見られる相互作用

この相互作用は近年のアメリカンコミックなどには多く見られるもので、映画で取り入れたアイデアが好評だった場合、それを原作のコミックにも踏襲するということが少なくありません。

もともと、ライターとビジュアルの担当が固定されていないアメリカンコミックは、固有の作家性に縛られることがなく、多くの作品において、その時々の時代性や社会性を貪欲に取り込んできた過去があります。

最近で言えば、女性がメインヒーローの名前を継承したり、非白人、LGBTQ(性的マイノリティ)のキャラクターが登場したりしています。

特にハリウッド映画は全世界を市場にしていることもあり、より時代性、あるいは普遍性が求められることになります。結果として、映画にはその時々に最大公約数と言える要素が集まってくるので、これをコミックに取り入れるというのはある意味で当然の流れなのかもしれません。

ファンの間では知られていることですが、映画『アベンジャーズ』などに登場するサミュエル・L・ジャクソン演じるニック・フューリー大佐は、長きに渡りコミックでは白人男性でしたが、映画が進むにつれてコミックの方でも黒人男性に変更されています。

主役の事故死

ワイルド・スピードで言えば、日本では2019年に公開された『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』がシリーズの中で人気の出たホブス(ドウェイン・ジョンソン)とショウ(ジェイソン・ステイサム)を主役にしたスピンオフ作品です(原題は『Fast & Furious Presents: Hobbs & Shaw』)。

もともとワイルド・スピードはヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカーのW主演という形を採られていましたが、ポール・ウォーカーが2013年に事故で急逝してしまいます。そこでヴィン・ディーゼルと肩を並べる新キャラクターを登場させる必要があり、ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサムというトップクラスのアクションスターが立て続けにシリーズに参加しました。

ワイルド・スピード/スーパーコンボ』は新キャラクターを深掘りするためのスピンオフ作品であり、ここで描かれたホブスとショウは今後のシリーズに復帰する予定です。

また、相互作用という点で言えば、短編映画やドラマシリーズのプロデューサーや監督としてヴィン・ディーゼルが参加しており、本筋でもシリーズ5作目の『ワイルド・スピード MEGA MAX』からプロデューサーとしても参加しています。

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日本のメディアフランチャイズ戦略

日本では映像なら映像、出版なら出版とメディアごとの担当が明確に棲み分けされているので、俳優が制作側に回って作品全体をリードする例はまだ少ないかもしれません。

アメリカンコミックやワイルド・スピードで見られるような同一人物(キャラクター)が、メディアを横断するような形で展開されることがなかなか見られないのが実情です。とはいえ、『エヴァンゲリオン』や『ガンダム』などのアニメーション作品ではメディアフランチャイズに近い展開を見せています。

ワイルド・スピードの成功例をみると、縦割り組織が一般的な日本でもハリウッド型のメディアフランチャイズ戦略が展開されやすい土壌がもう少し豊かになっても良いのではないかと思います。(2021年8月6日公開)

文:村松 健太郎/編集:M&A Online編集部

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村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

映画文筆家

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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