事実は小説より奇なりを地で行く「サンマ裁判」|サンマデモクラシー

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占領下の沖縄で起きた世にも奇妙な“サンマ裁判”とは

6月23日、76回目となる沖縄全戦没者追悼式が行われました。昨年に引き続き、新型コロナウイルス感染対策のために出席者をギリギリまでに絞って行われた追悼式は、一抹の寂しさを感じさせるものでした。

2019年10月に首里城(那覇市)が火災で焼失するという悲劇もありましたが、首里城は過去にも幾度となく焼失してきました。沖縄全土を焦土と化した太平洋戦争・沖縄戦でも首里城はその姿を失っています。

私たち日本人が沖縄を語るとき、米国の沖縄統治や今なお続く米軍基地問題など、どうしてもシリアス且つ、重々しい雰囲気になってしまうものです。しかし、そんな空気を一変させるごとく登場したのが、この世にも奇妙なドキュメンタリー映画『サンマデモクラシー』です。

権力者を追い詰めたウシおばぁ

舞台は1963年沖縄。本土復帰を願う沖縄の人々が日本の味として食べていたサンマには輸入関税がかけられていました。その根拠は琉球列島米国民政府の高等弁務官布令の中にある、物品税法を定めた高等弁務官布令十七号にありました。

しかし、関税の対象と指定された魚の項目に、サンマの文字はなかったのです。そこで「関税がかかっているのはおかしい」と、糸満の魚卸業の女将・玉城ウシが、琉球政府を相手に徴収された税金の還付を求めて訴訟を起すことに。その額は、現在の貨幣換算で7000万円でした。

この“ウシおばぁ”が 起こしたサンマ裁判は、いつしか統治者アメリカを追い詰め、民主主義を巡る闘いに発展します。

沖縄の人々の視線の先には、1961年初めから1964年夏までの3年半、琉球列島第3代高等弁務官を務めたポール・W・キャラウェイがいました。キャラウェイは、沖縄経済の改革に尽力しましたが、一方で布令を何度も発令して民衆を縛り付け、本土復帰運動を弾圧した強権政治を展開。沖縄のメディアは"キャラウェイ旋風”と名付け、沖縄の人々はこの絶対権力者を恐れていました。

当時のアメリカは沖縄を「民主主義のショーウインドーにする」と琉球政府を置き、三権分立の体制も作られていましたが、その上に高等弁務官が指揮する琉球列島米国民政府“USCAR(ユースカー;United States Civil Administration of the Ryukyu Islands)”がありました。琉球政府はUSCARの統治下にあり、琉球政府の主席もUSCARの指名を受けて任命されるため、USCARから発せられた布令には誰も逆らうことなどできるはずもありませんでした。特にキャラウェイは軍人でありながら弁護士資格も有しており、「沖縄の自治は神話」と言い切るほどの超強硬派でした。

『サンマデモクラシー』は、キャラウェイに果敢にも挑んだ“ウシおばぁ”のサンマ裁判をきっかけに、その裁判を支えた弁護士や、大口をたたくことから”ラッパ”と呼ばれた政治家・下里恵良、はたまた米軍が最も恐れた政治家・瀬長亀次郎らの行動を追いながら、統治者アメリカと闘い続けた当時の沖縄の人々、さらには現在の沖縄のあり方を問いかけていきます。

事実は小説より奇なりを地で行く「サンマ裁判」

川平慈英の軽妙な、それでいて想いを込めるところはしっかり押さえるナレーションと、ナビゲーターを務める“うちな~噺家”の志ぃさーの沖縄弁全開の口上が相まって、実に軽妙に映画は進んでいきます。

琉球政府とその上にいるUSCARを相手に裁判を起こす“ウシおばぁ”に、”ラッパ”と呼ばれた豪快な弁護士・下里恵良、米軍が最も恐れた男”カメジロー”こと瀬長亀次郎(詳しくは映画『米軍が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯』を)が加わり、サンマを巡る裁判は沖縄全土を巻き込んだ事件に発展し、やがてそれは祖国の復帰運動へと繋がっていきます。

「布令にサンマの名前がなかった」という、ただそれだけのことから端を発したこの出来事が国家の命運を左右する壮大な事件に発展するとは、まさに「事実は小説より奇なり」です。

下里弁護士は県内の有力保守系県議、対して亀次郎は共産党から衆議院議員になった人物でイデオロギー的には真逆なのですが、郷土愛と互いの人間性については大いに認め合い、親しい友人関係を築いていたりもしました。

たかがサンマ、されどサンマ。庶民の味という最も身近なものをシンボルに、人々が様々な障害を乗り越えて一致団結できるのだと言うことをこの映画は教えてくれます。

ちなみに映画のメインテーマとは少しずれますが、カラーフィルム資料をふんだんに取り入れた占領下時代の“アメリカ世”と呼ばれた占領下時代の沖縄の姿を切り取った映像は、なかなか見ることができないもので、これはこれで一見の価値があります(7月17日より全国順次公開)。

文:村松 健太郎(映画文筆家)/編集:M&A Online編集部

<作品データ>
『サンマデモクラシー』
監督:山里孫存
ナレーター:川平慈英
ナビゲート:志ぃさー
制作:沖縄テレビ
配給:太秦
2021年/99分/G/日本
http://www.sanmademocracy.com/

サンマデモクラシー


村松 健太郎 (むらまつ・けんたろう)

映画文筆家

2002年から映画館勤務で業界入り。2016年頃から映画文筆家として活動を開始。脳梗塞を患ったために杖片手に試写室や映画会社を行ったり来たりしています。映画祭の審査員やインディーズ映画の宣伝などもしていますが、興行出身ということもあって、少しでも多くの人の足が劇場に向かってほしいと願う日々です。年間300本の新作とそれ以上の過去関連作を見て回っています。 

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