大震災想定で「アーンアウト条項」活用も

クロージング後に大地震が発生するかもしれませんが、その場合の手当ては。

基本的には契約書でカバーされない。ただ、一つ考えられる方策としてはアーンアウト(条件付き取得対価)条項がある。買収代金の一部を将来支払う取り決めのことで、クロージング後の一定期間経過後に、業績目標値の達成状況などに応じて代金を追加的に支払うようなものを指す。本来、売手と買手の間で価格評価に違いがある場合に用いられるが、これが大地震による企業価値の毀損をカバーする条項になり得る。

例えば、1年後にアーンアウトの支払いがあるとすると、その間に、大地震が発生して目標値が達成できなくなれば、支払いをしなくていい場合が出てくる。そういった観点からアーンアウト条項を入れる発想はこれまでなかったと思う。

ー実際問題として契約交渉で大地震が議論になることはありますか。

正面から議論になることは普段ない。ただ、(大地震は)いつ起きてもおかしくない状況といわれているので、それを意識して文言を工夫するというのはあり得る。私のここまでの話も、通常の実務の範囲内で大地震を意識して何か手当てをするとしたら、どういう条項があるかを述べたつもりだ。

M&Aの仕事は醍醐味があり、やりがいのある…と松本さん

忘れられないプロ野球ダイエーホークスの買収

ーM&Aを専門にした理由は何ですか。

弁護士になったのは1997年。ちょうど失われた10年と言われ始めた時代。景気低迷下、企業にとっては選択と集中がキーワードで、M&Aが盛んになり始めた。その背後にある弁護士の存在を知り、これはおもしろそうだと思った。

入所した西村あさひ法律事務所ではM&Aの大家として名高い岩倉正和先生(現在、TMI総合法律事務所)に付いて鍛えられた。駆け出し時代、銀行の経営統合案件などにもかかわり、貴重な経験をさせていただいた。

ー自身、しびれるようなM&Aのご経験は。

現在の事務所に入って初めて手がけたのがソフトバンクによるプロ野球ダイエーホークスの買収。事務所のメンバーは当時まだ3人だけ。デューデリジェンス(DD)から契約交渉まで私がほぼ1人でやり、最も記憶に残っている。

興味をかきたてられたという点では、2007年、日興コーディアルグループをめぐる米シティグループの三角株式交換。シティ日本法人が傘下の日興を完全子会社化する際、親会社(米シティ)の株式を割り当てるという内容だが、こうした三角株式交換は日本初だった。少数株主の利益に配慮して、通常の固定比率方式に代えて、変動比率方式としたのも目新しかった。私は日興が設置した特別委員会の法務アドバイザーを務めたが、M&A取引における様々な問題を考える良い機会となった。

M&Aの仕事は醍醐味があり、大変やりがいがある。日本経済を支える企業のダイナミズムが引き出せるよういささかでも役に立てればと思っている。

・ ・ ・ ・ ・

◎松本 真輔さん(まつもと・しんすけ)

中村・角田・松本法律事務所パートナー。専門はM&A、企業再編、企業提携など。1970年福岡県生まれ。95年東大法卒。

在学中に司法試験に合格し、97年に弁護士登録。西村あさひ法律事務所、長島・大野・常松法律事務所に所属。2002年にスタンフォード大ロースクールを卒業し、ニューヨークの法律事務所勤務。03年にニューヨーク州弁護士登録。 04年4月に中村・角田法律事務所に入所し、05年1月からパートナー。現在、早大や立教大などで教鞭をとる。

聞き手・文:M&A online編集部 黒岡 博明