森山 太郎
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
マネージングディレクター
現・有限責任監査法人トーマツを経てDTFAに転籍。買収側デューデリジェンス、売却側FA、企業再生に関わる分析・調査・相談業務、企業および事業・無形資産の価値算定、M&Aに関する会計・税務上のストラクチャー、買収価格調整に関わるサポート業務、PMI(買収後統合)業務、米国会計基準での財務諸表作成などのM&A関連業務を含む多様なに携わる。
安廣 史
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー
現・有限責任監査法人トーマツにて大手商社の米国基準に基づく財務諸表監査や一般上場会社の監査に従事した後、DTFAに入社。株式価値評価、財務モデリング、債権・機械設備の評価、会計目的評価(PPA)などを担当している。金融関連の評価を主に担当している。日本公認会計士協会で「機械設備の評価実務」、「スタートアップ企業の価値評価実務」の策定に従事。
鷺坂 知幸
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
パートナー
有限責任監査法人トーマツ入社後、米国会計基準を含む大手金融機関の監査業務に従事。その後DTFAに転籍し、無形資産価値評価、米国基準、国際会計基準ののれんの減損テスト支援、株式価値および事業価値評価などのバリュエーションサービスに関する業務に従事、現在に至る。
渡辺
「M&A無形資産評価の実務(第4版)」はM&A時の無形資産評価実務について解説しています。そもそも「無形資産」とは何でしょうか。またその重要性もお聞かせください。
安廣
無形資産とはブランド力や技術力、人的資本など物理的な形を持たない資産を指します。土地や機械設備といった形を持つ有形資産とは対になる概念ですね。そんな実態のない無形資産ですが、その重要性はますます増してきています。
例えばバブル期の世界時価総額ランキングでは銀行業や製造業が上位を占めていました。一方現在は、AppleやMicrosoft、Alphabet(Google)などのIT企業が上位にランクインしています。それらIT企業の価値の源泉は、まさにテクノロジーを中心とする無形資産です。時価総額ランキングの変化を見ても、無形資産の価値は近年ますます高まっていることがわかります。
鷺坂
現状行われている多くのM&Aの目的が「対象企業が持つブランド力・技術力・顧客基盤を獲得するため」ですね。M&Aの観点から見ても、無形資産は重要なファクターになっています。
渡辺
会計基準に定められているという前提はありますが、企業結合時のPPA(主に買収後の無形資産評価)が必要な理由についてもお聞かせください。
森山
鷺坂
安廣
有形固定資産評価については、2019年7月に日本公認会計士協会より機械設備に関する評価ガイダンスが公表されたことが大きな節目になっています。それまでは各社がそれぞれ独自のやり方で評価をしていましたが、現在はガイダンスに沿って各社が同じ目線で評価ができる環境が整いました。それに伴い、日本においても「製造設備や車両運搬具などの機械設備もしっかり評価をしよう」という機運が高まりました。
渡辺
ベンチャー企業(スタートアップ企業)の企業価値評価における近年の動向はいかがでしょうか。
安廣
日系企業による昨今のベンチャー企業への投資額は右肩上がりで推移しており、1件あたりの平均投資額も2011年の約1億円から2021年には10億円強に拡大しています。一方、ベンチャー企業の価値評価は、成熟企業の価値評価とは異なる視点が必要です。
そうした中、2023年3月、日本公認会計士協会よりスタートアップ企業に関する評価ガイダンスが公表されました。同ガイダンスの登場により、ベンチャー企業の企業価値評価の理解が広がるほか、ベンチャー企業の価値評価がスムーズに進んでさらに投資が活発化することが期待されます。
渡辺
「M&A無形資産評価の実務(第4版)」を執筆するにあたり、新たな気付きはありましたか。
森山
前回の第3版と比べて、事例の収集作業がとてもスムーズだったのが印象的でした。それは今回の執筆者の方達が優秀だったことに加え、データベースが充実したことも大きな要因でしょう。日本においてもデータの有効活用ができる環境が整えられていたのだと、その情報環境の変化に気付かされました。
一方、データベースの発達は、単に事例をたくさん知っていることが価値にならない時代に突入したこともまた意味しています。現在は事例を知っているのは前提で、過去事例をどのようにお客様の個別事案に落とし込んで活かしていくのかが重要であり、したがってより一層DTFAの経験やノウハウが問われることになりますね。
渡辺
「M&A無形資産評価の実務(第4版)」について、特に着目してほしいポイントはありますか。
森山
会計基準に関する内容とバリエーションの計算実務(評価手法)の内容とが、バランスよく載っている点が本書の特徴です。そのため、経理・財務・会計畑の方は本書で実際の計算テクニックを、計算実務畑の方は会計知識を深めることができます。両方の内容を行ったり来たりしながら、うまく本書をご活用いただければ嬉しいですね。
鷺坂
今回は本文のほかに、コラムも多数掲載しています。コラムの内容も、本の主要テーマである無形資産評価に関するものだけでなく、フェアネスオピニオンやベンチャー企業の価値評価など多岐にわたります。コラムを読むだけでも評価実務に関する最新トレンドが感じられる仕様になっており、最初にコラムをななめ読みすれば、本文への入りもスムーズかもしれません。
安廣
例えばあるコラムでは、「条件付対価」について紹介しています。条件付対価とは、簡単にいうと「例えば数年後に対象会社が売上目標〇〇円を達成すれば追加で〇〇円を買い手から売り手に追加で支払います」という支払い条件のこと。近年、M&Aにおいては「例えば対象会社が保有する潜在的な技術に莫大な価格が付けられているが、果たしてその潜在的な技術について将来開発が成功し相応の利益をもたらすかわからない」という不確定要素を抱えるケースが増えています。このリスクをコントロールできるのが条件付対価であり、ぜひ多くの方に知っていただきたい概念ですね。
渡辺
最後に無形資産評価実務の担当者へ、代表して安廣さんからメッセージをお願いいたします。
安廣
現在は、強力な無形資産を持ち、さらに当該無形資産を上手に活かす企業が世界で躍進しています。その意味で、無形資産=会社の顔とも表現できるでしょう。担当者にはぜひ「無形資産の価値をしっかり分析して、その会社の顔を作る」という意識を常に持ち、日々の業務に邁進していただければ嬉しいです。