居酒屋「八吉」や「のど黒屋」を展開する一六堂<3366>が、MBOにより非上場化すると11月5日に発表しました。代表の柚原洋一氏の資産管理会社・八越が1株515円で市場から株式を買い取ります。買い付け資金として、みずほ銀行から39億5000万円を調達(日経新聞より)しました。当然、300円台で低迷していた市場は大盛り上がり。買い付け金額付近までストップ高が続いています。
さて、問題はMBOの目的です。同社によれば、非上場化によって不採算店舗の整理や新業態の開発を加速するとのこと。しかしながら、一六堂はここ最近、まともに出店や業態転換をしていませんでした。過剰なまでの現金を手にし、外食企業にあるまじき、異常なまでの”財務健全性”を保っていたのです。
今回のMBOは、一六堂という会社が”仕上がった”ことを意味しています。すなわち、企業価値を上げる努力よりも、その必要がなくなって悠々自適な経営を選択したということです。
キーポイントとなるのは3つです。
まずは出店の状況から見てみましょう。新規出店で稼ぐビジネスモデルの、上場外食企業とは思えない驚くべき数字です。
▼一六堂店舗数
2014年2月期 | 2015年2月期 | 2016年2月期 | 2017年2月期 | 2018年2月期 | |
八吉 | 32 | 33 | 33 | 32 | 32 |
のど黒屋 | 6 | 7 | 7 | 7 | 6 |
黒き | 8 | 8 | 8 | 3 | 3 |
その他 | 33 | 32 | 31 | 27 | 25 |
合計 | 79 | 80 | 79 | 69 | 66 |
ここ5年、主力の「八吉」の出店はなく、新業態の開発・業態展開は行っていません。そんなわけなので、当然、業績も振るわないわけです。
▼一六堂業績推移
2014年2月期 | 2015年2月期 | 2016年2月期 | 201年2月期 | 2018年2月期 | |
売上高 | 93億1500万円 (7%減) |
95億8500万円 (3%増) |
96億4500万円 (1%増) |
91億3300万円 (5%減) |
84億3600万円 (8%減) |
経常利益 | 5億4300万円 (50%減) |
6億4600万円 (19%増) |
4億4200万円 (32%減) |
5億4600万円 (24%増) |
4億6800万円 (14%減) |
※有価証券報告書をもとに筆者作成
売上も利益もほぼ横ばいで、成長性は感じられません。新規出店やM&Aを行わないのだから、当然といえば当然です。
一方、財務状況は極めて良好な状態が続いていました。
▼直近の資産と負債
流動資産 | 32億2800万円 | 流動負債 | 5億9900万円 |
固定資産 | 31億3300万円 | 固定負債 | 2億5100万円 |
※有価証券報告書をもとに筆者作成
流動比率は、なんと539%! 理想値で200%といわれる中、軽々と飛び越えています。
ここで、売上高が同規模(2017年12月期:98億1500万円)の外食企業グローバルダイニング<7625>を見てみましょう。
流動資産 | 9億3700万円 | 流動負債 | 16億7100万円 |
固定資産 | 59億5700万円 | 固定負債 | 30億7600万円 |
流動比率は56%です。箱ものビジネスの外食企業は、どうしても固定資産が膨らみがち。流動比率は悪化する傾向があります。56%は決して良くないですが、外食界隈ではよく見かける数字です。異常なのは、一六堂の方です。
一六堂は、長期借入金がゼロの完全無借金経営。財務体質は極めて健全でした。さらに驚くのが、保有する現金の額です。