「寛懐」和を保つだけでは済まない時|M&Aに効く言志四録

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西郷隆盛も愛読したといわれる『言志四録』。西郷はそこに何を読み解いたのか?(ac-yuki・iStock)

心に問う

 共通の敵と戦うために、かつての敵と組むわけです。同盟をきっかけに江戸幕府はその力を失っていったのです。

 より大きな目的、ビジョンがあるときには、その前にある障壁は比較的小さくなっていくものです。障壁を取り除くために、「敵の敵は味方」といった割り切りも許されることがあります。

 西郷隆盛は、明治維新に向けて大きな役割を果たした一人であることは間違いありません。彼が『言志四録』から抜き出した101条の中には『「信孚」秘密を共有するには』で紹介している『「信」三則』も選ばれています。

 ちなみに、佐藤一斎は1772年生まれ、西郷隆盛は1828年生まれ。その差56歳ですので、西郷は一斎の孫世代と言えます。世代を超えて活用された言葉なのです。

 和を重視するか、志を守るか。選択を迫られるとき、大切なのは、自分の心のあり方です。

人は皆身の安否を問うことを知れども、而(しか)も心の安否を問うことを知らず。宜(よろ)しく自ら問うべし。「能く闇室(あんしつ)を欺かざるか否か。能く衾影(きんえい)に愧(は)じざるか否か。能く安穏快楽を得るか否か」と。時々(じじ)是(か)くの如くすれば心便(すなわ)ち放れず。(または放(ほしいまま)ならず)(『言志後録』98 心の安否を問え)

●心の安否を問う

体の健康には気を使う人は多くても、心の健康には無頓着な人が多い。ときどき、自分の心に問いかけてみよう。「やましいことはないですか。ひと目を避けて恥ずかしいことはしていないですか。心は安らかですか。毎日を楽しんで生きていますか」と。そうすれば、心が勝手にあちらこちらへ行ってしまうことはない。

 健やかな心を保つことで、和でいく時と介でいく時の切り換えも、スムーズにいくはずです。決断をするにあたって俗情に堕ちないであり続けるためにも、いつも自分のメンタルを健全な状態にしておきたいものです。

 いまの時代にメンタル重視は当たり前なことでしょう。ただ、どうしてメンタルが大切なのかは、人によって違います。立場によっても違います。M&Aで迫られる決断で、正しくあるためにどのようなメンタルであることが理想でしょうか。みなさんもぜひ、考えてみてください。

※漢文、読み下し文の引用、番号と見出しは『言志四録』(全四巻、講談社学術文庫、川上正光訳注)に準拠しています。

文:舛本哲郎(ライター・行政書士)

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