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「今過」向き合う気持ち|M&Aに効く言志四録

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「心のつかえ」を取り除き、自然体で楽しもう(Blue Planet Studio/iStock)

やむにやまれぬ勢い

勢いをつけるには、覚悟と入念な準備が必要(takoburito/iStock)

 『言志録』の中から西郷隆盛「南州手抄言志録」に選ばれている言葉も紹介しておきましょう。

著眼(ちゃくがん)高ければ、則ち理を見て岐(き)せず。(『言志録』88眼を高くつけよ)

●高く遠く

高いところから遠くを見通せば、どの道を選ぶか迷うことはない。

 計画性に不可欠なのが、視点です。どの角度から事象を見るかによって、計画も変わっていきます。目の前の問題を解決するための計画であっても、より遠くまで見通せていれば、不必要な目標を削り、ムダな作業を減らせるでしょう。目の前には常に問題があります。それを完全になくす必要があるのか。それとも4割減らせばいいのか。回避するだけでいいのか。それは、遠くが見えていなければわかりません。

己れを喪(うしな)えば斯(ここ)に人を喪う。人を喪えば斯に物を喪う。(『言志録』120己を失えば)

●自分を信じる

自信を失ったとき、人からの信用も失う。人からの信用を失ったとき、手にしたものを失う。

 短いですが怖い言葉です。ここで大切なのは自信。過信ではありません。自分を信じていいのか。常に自分に問い続けた者だけが持つことのできる自信。ともすれば「信じてください」とまず信用を得ようとしてしまうものですが、そもそも自信のない人を信じてくれる人はいません。自信には裏付けが必要です。エビデンスも必要です。実績だけではなく、いま目の前で見えている言動も重要です。そのすべてが、一つの志の上に組み立てられているものなら、揺らぐことはないでしょう。

 進んでいくためには、自身の内側から崩れないようにしっかり築いていくことが理想的です。

已(や)む可(べ)からざるの勢に動けば、則ち動いて括(くく)られず。枉(ま)ぐ可からざるの途(みち)を履(ふ)めば、則ち履んで危からず。(『言志録』125やむを得ざる勢 その二)

●勢い

 十分に考え抜いた末に最善の道と確信したとき、これしかないのだとやむにやまれぬ勢いで進めば、行き詰まることはない。

 よく「気持ちで負けるな」と言われます。万全の準備をし、自分たちが進むためにはこれしかないと信じる道を選んだとき、私たちは覚悟を決めることができます。そのような強い気持ちで当たれば、多少の困難にめげることはないはずです。この言葉は、勢いをつけるためには、その前に覚悟が必要であり、覚悟を決めるためには入念な準備が必要だと言っているのです。

 長らくお付き合いいただいた「M&Aに効く言志四録」は今回で終わります。佐藤一斎の言葉は、古くさいと映ることもあるでしょうし、説教くさく感じることもあるでしょう。なによりいまの時代には好かれない「上から目線」を感じてしまうわけですが、それでも江戸末期の困難な時代に、これだけの言葉を後の世に残そうとした強い気持ちを感じます。

 その一字一句をそのまま受け止めることは、恐らく佐藤一斎も望んではいないはずです。むしろ、こうした言葉から私たちが何を感じ、何を学べるか。そこが大切なところでしょう。

 コロナ禍によって世界は一変しました。人の気持ちや行動も大きく変わりました。これからの時代にも、折に触れて佐藤一斎の言葉を過去から照らす光として確認しながら、これからの変化に向かっていきたいものです。

※漢文、読み下し文の引用、番号と見出しは『言志四録』(全四巻、講談社学術文庫、川上正光訳注)に準拠しています。

文:舛本哲郎(ライター・行政書士)

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