とはいえ、本を読むだけでは足りないのだと佐藤一斎は強調もしています。こちらも西郷隆盛が「南州手抄言志録」に選んでいる言葉です。
学は自得するを貴ぶ。人徒(いたずら)に目を以て字有るの書を読む。故に字に局(きょく)して、通透(つうとお)するを得ず。当(まさ)に心を以て字無きの書を読むべし。乃(すなわ)ち洞(とう)して自得する有らん。 (『言志後録』138無字の書を読め)
●字にとらわれるな
学ぶとは、自身で悟ることがもっとも大事なこと。目に入ってくる文字だけを追って本を読んでいないだろうか。これでは字にとらわれてしまい、物事の道理に気付くところまではいかない。心をフルに活用して字のない書物(人々、世の中や自然)を読んで自ら悟ることが大切だ。
志気を鋭くするには、視野を広げて体験を増やすことも大事なのです。読書だけでも足りず、体験だけでも足りない。自分の心をより高めていくために、日々、少しだけ意識をして積極的に行動してみるのはいかがでしょうか。
とはいえ、「学ぶこと」や「心を整えること」をあまりにも難しく考えることはないようです。
人の一生遭う所には、険阻(けんそ)有り、坦夷(たんい)有り、安流(あんりゅう)有り、驚瀾(きょうらん)有り。是れ気数の自然にして、竟(つい)に免るる能わず。即ち易理なり。人は宜しく居って安んじ、玩(もてあそ)んで楽しむべし。若し之を趨避(すうひ)せんとするは、達者の見(けん)に非ず。 (『言志後録』25達人の見解)
●楽しもう
人の一生を思うと、道に喩えれば悪路もあれば平坦な道もある。水の流れに喩えれば、穏やかな流れもあれば、激流もある。こうした変化は自然なことで、嫌だからといって逃れることはできない。それが運命と思えば、いま自分の状況を受け入れて楽しむのも手である。ただ嫌だからと逃れようとしてばかりいるのは、人生の達人のすることではない。
人生の達人になりたいかどうかは別として、歴史的に見ても厳しい状況を楽しんでしまう偉大な人たちがいたことは事実でしょう。たとえば映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』を見たりすると、チャーチルはあの状況でもなお仕事を夢中になって楽しんでいたのではないかと思えてしまいます。
志気の鋭さは、状況に左右されることなく、自身の生きる道として立ち向かっていく姿勢に現われるのではないでしょうか。そしてどんなにそれが不利な状況でも、そうやって自分の運命を切り開く強い心を持つ人は、楽しんでいるように見えるのではないでしょうか。ほかの誰でもない、自分だけの道なのですから。
これからも、私たちは、どのような状況に直面しようとも、そこから学び、さらに楽しむだけの心を持てるようになりたいものです。
次回は最終回。『言志録』から2021年の私たちに響く言葉を探してみましょう。
※漢文、読み下し文の引用、番号と見出しは『言志四録』(全四巻、講談社学術文庫、川上正光訳注)に準拠しています。
文:舛本哲郎(ライター・行政書士)
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