3月25日を期限にTOB(株式公開買い付け)が進行中の中堅印刷買会社「廣済堂」(東証1部)に対して、対抗TOBが提起された。南青山不動産(東京都渋谷区)が22日から廣済堂にTOBを開始する。
TOBを仕掛けた南青山不動産は旧村上ファンドの関係企業であるレノ(東京都渋谷区)のパートナー企業。レノと南青山不動産は廣済堂株式の13.47%を共同保有する。レノ側は今回の対抗TOBで保有割合50%(下限)を目指している。買付価格は1株750円で、現在進行中のTOBに比べ50円高く設定した。
廣済堂は米投資ファンドのベインキャピタルの支援を得て、TOBを通じたMBO(経営陣が参加する買収)を1月18日に開始した。この間、TOB成立の確度を高めるために、買付価格の引き上げなどの条件変更を行った。しかし、廣済堂株の市場価格は買付価格の700円をいぜん上回ったままで、TOBの成立が困難視されている。
対抗TOBが提起された以上、廣済堂側がTOBを成立させるためには最低でもレノ側を上回る条件変更が不可欠。レノ側には買付価格の引き上げを誘う思惑があるとみられる。
いずれにせよ、廣済堂としては25日まで2営業日となったTOB期間中に買付価格の再引き上げの有無について決断が避けて通れない。
南青山不動産を含むレノ側は現在、廣済堂株式の13.47%を保有し、事実上の筆頭株主。レノ側の買付価格750円は市場価格(20日の廣済堂株価の終値は737円)を上回る水準に設定している。買付予定数の下限は910万900株(買付金額約68億円。上限はなし)で、TOB成立後の保有割合は50%となる。買付期間は3月22日~4月18日。
廣済堂へのTOBはベインキャピタルの傘下企業が実施中。MBOの一環として行われ、完全子会社化による非公開化を目的とする。3月8日には買付価格を610円から700円に引き上げる一方、買付予定数の下限を保有割合で当初の66.67%から50%に引き下げると発表した。12日までだった買付期間は25日に延長した。
こうしたTOB条件変更の背後にあったのがレノの存在。2月初めにレノが廣済堂株式を買い集めていることが判明した。これをきっかけに廣済堂株価は買付価格を20%程度上回る高値で推移し、TOBの成立が危ぶまれていた。株主にとってはTOBに応募するよりも市場売却した方が得だからだ。
廣済堂は2月中にレノとレノと関係が深い村上世彰氏と計5回の協議を行った。700円への買付価格引き上げも村上氏を含めたレノ側の意見を踏まえた模様。このため、レノ側がTOB賛同に回る可能性が高いとみられていた。
廣済堂が3月20日に発表した資料によると、8日にTOB条件変更を公表した同日夜に、レノ側から700円を上回る価格でTOBを開始する用意があるなどとする書簡を受け取った。その後、村上氏を含むレノ側と複数回意見交換した。
これに対し、レノ側は対抗TOBまでの経緯を説明した同日の発表資料で、廣済堂が610円から700円に引き上げた買付価格について「対象企業(廣済堂)の本来の価値に鑑みると、必ずしも対象会社の既存株主に対して十分な株式価値向上の機会が提供されていない」などと指摘した。
もっとも、レノ側の指摘は的を射ている。その会社の純資産と株価の関係を示す株価純資産倍率(PBR)は廣済堂の場合、0.67倍で、長年1倍を下回っている。PBRが低ければ、それだけ株価が割安というわけだ。
ちなみに伊藤忠商事との経営対立で敵対的TOBの対象となったデサントのPBRは2.46倍。つまり1株あたり純資産約1040円に対し、直近株価は2555円。その点は廣済堂に比べ申し分ない。
1/17 | 米ベインキャピタルの支援を得てTOBによるMBOを発表 |
1/18 | TOB開始(買付価格610円) |
2/4 | レノの大量保有(5.83%)が判明 |
2/6 | 一時、848円の昨年来高値をつける |
2/18 | 創業家大株主、監査役の一人がTOBに反対表明 |
2/26 | 3月1日までとしていたTOB期間を3月12日に延長すると発表 |
3/8 | TOB期間を再延長(3月25日まで)、買付価格引き上げ(700円に)など条件変更を発表 |
3/20 | 南青山不動産が対抗TOB(買付価格750円)を22日から実施すると発表 |
3/25 | TOB終了 |
4/18 | 対抗TOB終了 |
文:M&A Online編集部
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