【会計コラム】社外取締役過半数への心構え
来年4月の東証再編で、プライム市場に上場する会社には高い水準のガバナンス体制が求められることから、社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきであると、コーポレートガバナンス・コードに規定されました。
ビズサプリの泉です。最近、私のクライアントのいくつかで持株会社体制への変更や、解消を検討するといった話がありました。
今回は持株会社体制についてお話したいと思います。
日本において持株会社は「子会社の株式の取得価額の合計額の当該会社の総資産の額に対する割合が百分の五十を超える会社」(独占禁止法第9条第4項)と定義されていますが、一般的には株式の保有を通じて傘下の会社を支配するだけではなく、グループとしての戦略検討、意思決定、管理することを目的とする会社といえます。
持株会社は、事業を行う関係会社の管理のみを行い自ら事業を行わない純粋持株会社と、自らも事業を行いつつ傘下の会社を管理する事業持株会社に分けられます。
日本においては、戦後持株会社であった財閥が解体され、1997年に解禁されるまで純粋持株会社は禁止されていましたが、現在は2020年10月末時点で上場会社の600社程度が持株会社体制を採用しているそうです。(大和総研コンサルティングレポート2021/3/17)
持株会社体制への移行の目的は大きく次の3つあるといわれています。
1.グループ経営管理の高度化
2.意思決定の迅速化
3.責任の明確化
持株会社体制の本質は、グループ経営と事業を分離することです。持株会社は各事業遂行をせず、グループ全体の戦略や投資意思決定を行うとともに、各事業の目標を定め、その管理を行うことに専念します。
実際の事業遂行には携わらないことから大幅な権限移譲を事業会社に行うこととなり、事業会社においては自律性が高まり、意思決定が迅速に行われるという目的が達成されます。
持株会社は経営、事業会社は事業に専念し、経営と事業の分離が明確となりそれぞれの責任が明確化されます。
その他に次のような補助的な効果、目的もあります。
4.コーポレートガバナンスの強化
5.M&A推進
6.税負担の低下
7.経営人材の育成
8.統合等のための組織的な目的
上記のそれぞれの目的について簡単に解説をいたします。
近年のコーポレートガバナンス強化の流れにより、従来の取締役会と代表取締役、執行役員制度のような社内の役職による分離ではなく、明確に管理監督と事業執行を会社として分離するということです。
M&Aを積極的に行う場合には、親会社と子会社が同業の場合は上下関係ができかねないため兄弟会社として行うほうが良い場合や、事業管理、人事制度、社風、ブランディングなどが異なる新事業の会社などは従来の本業とは別会社として保有するほうが管理しやすいなどM&Aをスムーズに行いやすくなります。
税負担の低下とは、全国の多店舗展開の会社において、資本金等と従業員の人数により金税額額が決まる地方税均等割の低減のため、資本金等の金額を大きい持株会社と、従業員数の多い事業会社という体制に変更することがよくあります。
経営人材の育成とは、上場企業のみならず非上場企業においても、後継者や経営人材の育成という観点で、まず事業子会社の社長を任せてみるということになります。ただ、私の経験上、オーナー社長が後継者育成のため社内の優秀な人物に事業子会社の社長を任せてみることが多いのですが、オーナー社長の下で優秀だった人は優秀な従業員であっても結局優秀な経営者にはなれない、あるいは結局オーナー社長が任せきれず、あまりうまくいかないことが多いと感じています。
統合等のための組織的な目的とは、例えば、複数の会社が経営統合を行う際に、いきなり合併等するのではなく、時間をかけて統合を行うために共同で持株会社を設立することや、類似事業を管理する中間持株会社を設立するなどグループにおける組織的な理由により採用されるものとなります。
持株会社体制への移行における懸念は主にグループ内の連携不足とコストです。
従来は同じ会社であったところ、自律性を高めるために別会社となるため、帰属意識、仲間意識の低下、情報共有の不足等により各社において部分最適、縦割りがすすみ、結果としてグループ全体のパフォーマンスが下がる恐れがあります。
また、持株会社体制に移るために、一時的な費用としてコンサルティングや専門家報酬、作業工数の増加、税金費用などがかかるほか、別法人となることで各事業会社において規模が小さくなるとはいえ、税務申告等バックオフィス業務は事業会社分増えるととともに、各会社間での取引や調整、各社での業績管理、資金繰りなどの業務が新たに増加します。
移行に伴うコストといえなくもないですが、従来上場企業の従業員だった場合に、持株会社体制とはいえ、子会社の従業員になるということへの反発や、モチベーションが下がることがあるというのはわりと聞く話です。また、同様に採用に影響がないともいえません。
持株会社体制を成功するためには、持株会社の本質であるグループ経営と事業の分離をきちんと実施するとともにできるだけデメリットを抑えることがポイントとなります。
具体的には、組織面では持株会社と事業子会社の役割を明確化するとともに、事業に関する権限を大幅に事業会社に委譲するとともにガバナンスの観点での事項はきちんと持株会社が権限をもつというルールを明確化すること、できれば持株会社の役員と(非常勤を除く)事業会社の役員を兼任することは避けることです。業績面では、持株会社が事業会社の目標を設定、進捗管理することが必要です。
持株会社がリーダーシップをとり、各社の経営陣の定例会やグループ全体の従業員の交流を増やすなどなるべくコミュニケーションをとって情報共有も行い、グループ会社間の連携不足とならないようにする必要があります。
また、コスト面についても目的が達成できる範囲で、業務の統一化・共通化、単純化によりなるべく不要なコストがかからないようにすることが必要です。
文:泉 光一郎(公認会計士・税理士)
ビズサプリグループ メルマガバックナンバー(vol.144 2021.12.1)より転載
来年4月の東証再編で、プライム市場に上場する会社には高い水準のガバナンス体制が求められることから、社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきであると、コーポレートガバナンス・コードに規定されました。
2020年12月21日に税制改正の大綱が閣議決定されました。今回は新型コロナ感染症の影響の色濃い2021年税制改正のうち、経理の業務に関係が深そうな項目について考えてみたいと思います。
新型コロナウイルス感染症では、企業は事業面、人事労務面、資金面等多くの面で事業継続に向けた危機管理を行う必要があります。