【中小企業のM&A】株主の意思能力・行為能力の確認はどうする?

alt
写真はイメージです。

中小企業事業承継型M&Aの売り手の株主は比較的高齢者であることが多い。今後増えてくるであろう株主としての意思能力・行為能力問題について記述してみたい。

【民法上の意思能力】

契約が有効に成立するためには、当事者が主体になるに足りる判断や意思を持っていることが必要となる。意思能力なしの代表例としては、寝たきり、認知症、精神病などが挙げられる。最終的な判断は「事理弁識能力の有無」となるため、その判断は素人ではかなり難しいと思う。実務の現場においては、先述の1、2歩手前の状況に出くわすことが最近増えてきた気がするのは筆者だけだろうか。

相談の受け付け時には必ずメモを取り、会話内容から違和感があった場合は、後日、再度同じ内容の話しをしてみて意思能力の有無について確認しておくことが将来のトラブル未然の観点からも賢明であろう。

【民法上の行為能力】

意思能力とは別に、法律行為を「単独で完全」に行うことの出来る能力のことを「行為能力」という。高齢の株主と会話をしていると、時と場合によって判断能力に? がつく場面がある。少し失礼な言い方となるが、初期症状としては自分の話しをしだすと止まらなくなる、こちらの話しや質問に回答することなく別の話しを始めるなどが挙げられる。

売り手の株主が行為能力者か制限行為能力者であるかの違いは、契約の根幹に関わる重要な問題であることを1回目の面談時から念頭において交渉にあたる必要がある。

【解決方法】

売手の株主に意思能力や行為能力に問題がありそうな株主が含まれる場合、まずは家庭裁判所から成年後見制度による「保護者」が選任されているかどうかを確認してみる。初期段階であれば、選任されていない場合が多いのだが、M&Aの交渉は期間が長期化することもあり、途中で物事の判断がおぼつかなくなるようなケースも想定しておく必要がある。

成年後見人の選任と、成年後見監督人の選任、両方を頭に入れて時間に余裕を持った交渉をお勧めする。一般的には成年後見の申し立て準備から審判が確定するまでには約3ケ月くらいかかる。成年後見監督人あるいは家庭裁判所の関与も考慮すると更に2カ月程度を要する。

筆者も「まだ、今は大丈夫だろう…」と面談の初期段階で対応を緩めたために、後でディールブレイクを経験したことがある。高齢化社会においては、株主問題だけでなく、相続全般の問題としても「意思能力」、「行為能力」の有無、それが不十分だった時の対応にはかなりの労力が必要となる。

表明保証に「『意思能力・行為能力の存在』を入れておけば大丈夫」という説明をする方もいるようだが、これは軽率な回答であり、当該株主と直接面談し意思確認をしておくことが基本中の基本である。

文:Antribe社長 小林伸行(M&Aアドバイザー)

M&A Online編集部

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。


NEXT STORY

「M&Aにおける従業員重視経営の罠」|編集部おすすめの1冊

「M&Aにおける従業員重視経営の罠」|編集部おすすめの1冊

2021/06/28

M&Aを通じてプレーヤーが減れば、業界内の競争を緩和する効果が考えられる。ところが、1990年代前半のセメント業界では激しい価格競争が生じた。M&Aで期待される過当競争の解決や収益性の改善をもたらす「暗黙の共謀」が実現しなかった理由とは?

アクセスランキング

【総合】よく読まれている記事ベスト5