前回に引き続き、これからM&Aや事業承継を商いとしたいと思っている方や実はまだあまりディールにタッチしたことがない方によくあるミス、トラブルについて書いてみたいと思います。

 一物一価の原則

中小企業M&Aの実務において「一物二価」のスキーム提案が行われる時がある。私の経験上では売り手からの提案がほとんどである。社長が他の株主から事前に100円で買い戻す→全部買い戻した後、その株式を500円で売る。これがいわゆる、「一物二価」である。

場合によっては一物三価、一物四価になることもある。これのどこが問題なのでしょうか?

「M&Aをする前の話だから別に良いのでは?」と思ったそこのあなた‼  いつか痛い目に遭いますよ。詐欺取消、錯誤などの法務リスクとともに、贈与と認定される税務リスクも認識のうえ基本に忠実なディールを心がけて下さい。

名義株問題

これは中小企業M&Aにおいて一生消えることのないテーマだと諦めておいたほうがいいと思います。簡単に言うと、株式の「名義人」と実際の「お金の出し手」が相違しているという問題です。これが頻出する一番の要因は、平成2年の商法改正がなされるまでは、株式会社設立には最低7名の発起人が必要だったからです。

決算書についている別表2のみを確認し、それを信じてディールを進めると後々ロクなことになりません。私個人の意見で言えば、この問題は案件化する前に売り手が費用を払ってでも法務DD(デューデリジェンス)して確定しておくべき、とさえ思っています。

実務の世界でも、名義株問題が解決できないのなら買い手アドバイザーとしては、株式譲渡スキームを断念して事業譲渡会社分割に切り替えるアドバイスを行うべきです。

株式の民事信託

経営者の高齢化に伴い、最近の実務の現場でよく遭遇する取り扱い。売り手の株主が株式の処分権限を親族などに民事信託しているケース。まずは「委託者」と「受託者」の違いをちゃんと理解する。次に「信託契約書」の内容を確認する。この2つは必ずアドバイザー自身で行うよう心がけて下さい。

答えとしては、「受託者」が最終契約の当事者となるケースがほとんどで、何かあった時の「表明保証」の問題や責任も当然に受託者に生じることとなる。また、最終契約の作成にあたってはかなり工夫が必要になるので仕組みを十分に理解するまでは、信託が得意な弁護士に依頼して対応するのが得策と思います。

余談ですが、民事信託を利用する売り手の株主の意思能力に今のところは何も問題が発生してないケースもよくあります。その際は売り手の株主が契約についてあれこれ介入してくることがよくありますが、これはこれで認められませんので株主の機嫌を損なわないように上手に振る舞うのもアドバイザーの腕の見せ所です。

文:Antribe社長・小林伸行(M&Aアドバイザー