事業承継は、中小企業にとって最も大切な事項であることに間違いはありません。「誰に継がせるか」の判断を誤れば、一気に経営が傾きます。今のご時世、息子(あるいは娘)に継がせればよい、という単純な選択は非常に危険です。では、どうすればいいのか。一緒に考えてみましょう。

その1、「継がせない」を前提に考えてみる

子供の人生は子供本人のものです。それなりの年齢になれば、自分の将来の希望や人生設計などの意見もあるでしょう。中小企業の場合、もし子供がうまく経営できなければ、結局、親子ともども不幸になってしまうリスクもあるわけです。まずは、この点についてお子さんに聞いてみるのはどうでしょうか。

次に子供に経営を率いるだけの能力があるのかどうか。特にオーナー企業の場合は、子供を社長に就けること自体は難しくはないでしょう。しかし、その子供が会社を伸ばす手腕をもっているかどうかは別問題です。

私は、二代目には、ただ継いだだけという状態になる経営者が多いという印象を持っていますが、社会の変化や技術の進展に守りのみで本当に対応できるのか。レアなケースとして、二代目が意欲に燃え、さらに会社を成長させた例もいくつかはあります。

しかし、創業者を超えるほどの二代目は少ないことが圧倒的な現実です。オーナー兼親としては自分の子供が自分よりも秀でて、さらに会社を伸ばしてくれると思いたい気持ちもわかりますが、それだけでは客観性に欠けるとしか言いようがありません。

「同業、知り合いの会社が子供に譲ってうまくいったから、当社も大丈夫だろう」というのと同じで根拠にはなりません。では、誰に譲るのか。それには前提が必要となります。

まず、企業の使命とは現状を維持することではありません。同じことをしているだけでは縮小するのみです。よって、現状維持またはそれ以上を目指すとなると新しいことに挑戦し、少なくとも縮小部分を補うだけのものを絶えず付け加えていく必要があります。そのような力のある人が、会社を承継していく人としての最低要件となります。

その2、早めに手を打つ

能力に加えて大切なものは?  と質問されたら私は即座に「ケミストリー」と答えます。

大企業と違って少数精鋭の中小企業にとって相性はとても大切です。これは、長年その会社に勤めているとかではなく、社風や人材のことを「肌」で感じることができる能力のことを指します。

よって外部からの登用にもこの「相性」は当てはまります。まずは、①自分と比べて秀でたものを持っている人、②自分にはないものを備えている人、③自分より広い経験を持っている人ーを探してみて下さい。

社内にそういった方がいればベストですが、そうでなければ、次に外部に目を向けてみて下さい。後継者を育てるには3~5年くらいがいいと個人的には思っています。よく10年くらいと言いますが、それでは現実味がないのでは?  というのが私の意見です。

もし、候補者をアサイン(指名)したとしてもうまくいかないこともあります。そうなれば、また一からやり直しです。そう考えると結果的には10年かかる、ということも十分考えられます。

その3、経営と株主を分ける

「狭い視界」。この言葉は日本の経営者によく見られる兆候です。はたから見ると、若い経営者でも「会社さえ伸びればいい」というような経営をしている方が多いと感じます。これではいつまでたっても家業の域のままでしょう。会社の拡大に「公共性」は必須です。

そうなると、いずれはかつての三菱、三井、住友などの財閥と同じことが起きてくることになります。資本(株主)と経営の分離です。実際に最近では、投資ファンドが後継者不在の中小企業を買収するような事例も多くあります。

もし、ファンドに身売りすることに抵抗があるなら、取引先や同じ地域内の企業などから出資をしてもらい、そのルートで後継者を探すといった方法も可能です。地元金融機関のOB、OGなども後継候補者の1つになるかもしれません。広い視野を持って経営を行えば事業承継でも様々な選択肢があるのです。

「家業」と決めつけず、対処する

経営者の皆さまには、ぜひ中小企業の経営を「家業」と決めつけず、会社の成長を継続させることを前提に次のステップを考えて事業承継に取り組んで欲しいと思います。事業承継を契機に日本の中小企業が、新しい成長戦略を歩むことができれば、日本の経済は今後も発展、活性化していく可能性は十分にあるであろうと私は思います。

文:Antribe社長 小林 伸行(M&Aアドバイザー)