従来のスピーカーの音は、一点の音源から発せられる。このため距離が離れるほど弱くなりやすい。これに対し「ミライスピーカー」は、曲面の振動板全体から音が発せられるため、距離による弱まりが少なく、遠くまでハッキリとクリアな音が伝わる。聴こえに不安を持っている人にも、音による情報を届けることができる画期的なスピーカーだ。 空港や駅など多くの人が集まる空間でのアナウンス用や、病院や介護施設などの共有空間でのテレビやアナウンス用、学校や会議室での講演やイベント用、自宅でのテレビ用など応用範囲は広い。 このスピーカーを開発したのは、サウンドファンの佐藤和則社長。一体どんな人なのか。

難聴者向けスピーカー「ミライスピーカー カーヴィー」(同社ホームページより)


難聴者向けのスピーカー開発

小さなオルゴールにセルロイドの下敷きを当てただけで、驚くほど大きな音で鳴り出した。東京・浅草橋にあるサウンドファンのオフィスへ行くと、佐藤和則社長(61)が「原理はシンプルなんですが」と、実験して見せてくれた。まるで手品みたいだ。

大学生時代はバンド活動に熱中していたが、手首を傷めて音楽の道は断念。卒業後、富士ゼロックスに就職。プログラム関係の仕事に従事。5年後「自分の技術力の限界を感じて」外資系コンピューターメーカーの営業に転職し、2006年にIT系サービスのコンサルタントとして独立した。

音のバリアフリースピーカー開発のきっかけは、ビジネススクールでの出会い。

「仲間に音楽療法を手がける大学の先生を紹介され、難聴の高齢者は最近のオーディオより昔の蓄音機の方が聞きやすいという話を聞いて、これは面白そうだ」と、バリアフリースピーカーへの活用を思いついた。もともと理工学部出身、技術的なことが好きだった。

さっそく試作機を作り、重度の加齢性難聴で補聴器を使っていた父親に聞かせたところ「非常によく聞こえる」ことが分かった。電機を使わず、湾曲した振動板全体が音を発生する仕組みで、一般のスピーカーに比べて指向性がなく、小さな音でも拡散せずに耳元まで音が届き、どの場所でも同じような音質できこえる。効果があることは父親で実証された。

妻と共有名義の家を担保に、日本政策金融公庫から1500万円の融資を受け、2013年、資本金100万円で会社設立。「家を担保に借金するなんて、イエスという奥さんなんかいないよ」と周りの人に反対されたが、夫の申し出に妻は「いいわよ」とあっさり承諾した。6畳一間の事務所で2年間、開発研究を進める一方、高齢者の施設を訪問し、実証データを蓄積。2015年10月に「ミライスピーカー」の商品名で販売を開始した。(次回は6月5日掲載)

文:大宮 知信