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NECの「エリート街道」捨て、表具店の社長に(上)

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 先々週のこの欄で、東京・巣鴨のギャラリーで個展を開いた彫刻家を採り上げたが、そのギャラリーのオーナーが今回ご紹介する横尾靖さん(61)。襖(ふすま)や掛け軸、屏風などを扱う表具店「マスミ東京」の社長だ。家業の燃料卸問屋から転身した彫刻家とは反対に、横尾さんは会社勤めから専門外の家業へ入った。

NEC社員が家業を継いだ訳

 前職は日本の伝統文化とは真逆、最先端の通信機器を扱う営業マンだった。大手電機メーカーNECの海外事業グループに籍を置き、アフリカを担当。ケニアの放送網を整備するプロジェクトで社長賞を受賞し、最年少で主席駐在員、課長へとスピード出世を果たした。

 転身のきっかけは、妻の実家。もともと襖のメーカーで、工場が東京をはじめ全国各地にあり、指折りの生産量を誇っていた。ところが、後継者がいないため廃業寸前だった。

 「もうこれでやめる」という寂しそうな義父の姿を見て、「ちょっと待って。伝統を守ってここまでやってきたのにやめちゃうなんてもったいないと言ったら、じゃあ、やってくれるのかということになった」という。36歳の時にNECを退職、マスミ東京の3代目社長に就任した。

表具店「マスミ東京」社長の横尾靖さん

思い切った決断

 中小企業の後継者不足が深刻になる中、多くの伝統技術が危機的状況にさらされている。表具店の業界も同様だ。住宅が洋風化し、襖や障子の需要は減少の一途。大手電機メーカーから伝統産業へと、180度異なる分野への転身である。エリート街道を捨て、衰退していく業界に飛び込んだ、思い切った決断である。(次回は2月20日掲載)

文:大宮知信

大宮 知信 (おおみや・とものぶ)

1948年 茨城県生まれ。ジャーナリスト。政治、教育、社会問題など幅広い分野で取材、執筆活動をつづける。主著に『ひとりビジネス』『スキャンダル戦後美術史』(以上、平凡社新書)、『さよなら、東大』(文藝春秋)、『デカセーギ─漂流する日系ブラジル人』『お騒がせ贋作事件簿』(以上、草思社)、『「金の卵」転職流浪記』(ポプラ社)などがある。 


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