引き継いだ家業は倒産寸前

還暦になったのを機に、電気自動車の開発を始めた人がいる。神奈川・川崎のベンチャー起業家・松波登さん(69)だ。

親の代から続くガス警報器の会社「東科精機」の経営者であり、自ら起業した「日本ヴューテック」に続いて、EV車の開発を進めるベンチャー企業「日本エレクトライク」を10年前に設立した。定年を迎える年齢だったが、大手自動車会社が開発にしのぎを削る分野に、中小企業が取り組むこと自体驚きだ。

松波さんは1975年のモンテカルロラリーにも出場した元レーサーだが、30歳の時に父親が亡くなり、経営していた東科精機を引き継ぐことになり、ラリーは断念。ところが、会社は巨額の債務を抱え倒産寸前。「家族が路頭に迷わないように」と大型車の免許を取得。これが苦境を乗り越える新製品の開発につながった。

「大型車の基本を習ったときに、後方視界の悪さを痛感した。実際にトラックを運転する度に、後方視界の悪い車の運転に危険を感じていた」という。

ある日、トラックの運転席の横にテレビが置いてあって、後ろの景色が映っているような夢を見た。「面白い夢だなと。これで何か出来るんじゃないかと思って」すぐに日本ヴューテックを設立。苦心惨憺の末、大型車の後部にカメラを取り付け、後ろの様子を運転席で確認する装置を開発した。

1997年に「リアビューモニター」の商品名で売り出した。当時、バックするときだけ映像を見る方式のバックアイカメラはあったが、走行中に常時後方確認ができる装置はなかった。

当初は思ったほど売れず、12年間赤字が続き、「何度つぶれそうになったかわからない」と述懐する。モーターショーやトラックの展示会などには必ず「リアビューモニター」を出品し、運輸業界への販促を強力に行った。そうしたマーケティングの努力が功を奏し、今や大型車にはなくてはならない安全装置となっている。(次回は5月8日掲載)

文:大宮 知信