創業100年の建材会社を売却し、映画監督になった三上康雄さんは、建材会社の社長時代、製品やカタログのデザインなどクリエイティブな仕事もこなしてきた。それが映画作りにも役に立っているという。
「中小企業のオヤジは何から何までせないかん。映画作りも一緒、自分の思い通りのものを作ろうと思ったら、監督から雑用まで自分がしないと」
前作の時代劇映画『蠢動-しゅんどう-』の監督・脚本も1人で手がけた。酒は飲まない。酒を飲んで愚痴をこぼす人が嫌いだ。自分でもストイックな性格だと思っている。
「僕の人生の後半は何かといったら、自分自身を残すこと。歴史に残る作品を残していくこと。僕がこの世からいなくなっても、映画によって感動してくれたり、いろいろ考えてくれる人がいる。そういうものを作りたい。だから僕の映画は消費物ではない」
次作も時代劇映画。タイトルは『武蔵-むさし-』。過去に何度も小説や映画化された宮本武蔵ではなく、史実に基づくオリジナル脚本で、武蔵や小次郎が活躍した時代を描く。孤高の若き剣豪 武蔵を細田善彦、佐々木小次郎を松平健が演じる。監督、脚本は三上さん。すでに撮影は終了し、編集作業に入っている。来年初夏に公開予定。
一般に公開する商業映画は入場料を取る。言うまでもなく、ビジネス的に成功しなければ映画作りは継続が難しくなる。そんなことは三上さんも先刻承知で、デビュー作がホップだとすると、「次はステップじゃなくて、ジャンプしたい」と語る。
前の作品が完成する2年前に妻を亡くした。映画作りは「無数のピースを丹念に組み立てるようなもので」苦労の連続だったが、あまり多くを語らない。最後に、多くの人から「感動した」という声を聞くと「やはりうれしい」と笑顔を浮かべた。
文:大宮知信
1948年 茨城県生まれ。ジャーナリスト。政治、教育、社会問題など幅広い分野で取材、執筆活動をつづける。主著に『ひとりビジネス』『スキャンダル戦後美術史』(以上、平凡社新書)、『さよなら、東大』(文藝春秋)、『デカセーギ─漂流する日系ブラジル人』『お騒がせ贋作事件簿』(以上、草思社)、『「金の卵」転職流浪記』(ポプラ社)などがある。