家業の建材会社をM&Aで売却

映画監督の三上康雄さん(59)はちょっと変わった人だ。東大阪市で建材会社を営んでいた元社長だが、若い頃からの映画好きが高じて、人生の折り返し点を過ぎた7年前に創業100年の会社を売却し、映画監督になってしまった。

学生の頃から仲間を集めてアクション映画や時代劇などの自主映画を作っていた。大学卒業と同時に、映画のグループも解散。映画を続けるべきか家業を継ぐべきか悩んだ末に「家業を継ぐのが天命」と思い、ミカミ工業に入社した。

同社は1909(明治42)年に創業、門扉やフェンスなどのエクステリア(外装用)資材を製造販売する会社だ。一般の社員と同様に平社員からスタートし、2001年に3代目の社長に就任。33年間映画業界とは関わらず、家業に専念。そのうち10年間は社長業を務めた。

2011年、創業100年を機に、M&Aで自社の全株式を売却。翌年、兵庫県芦屋市に株式会社三上康雄事務所を設立して、映画作りに乗り出した。

デビュー作の時代劇映画『蠢動-しゅんどう-』(2013年)は、武士たちの正義のぶつかり合いを描いた作品で、平岳大、若林豪らが出演。自らメガホンを取り、プロデュース、脚本もすべて1人で手がけた。制作費は全額自己負担。

テレビのスイッチをひねると、単純な勧善懲悪のドラマがあふれている。安直な映画は作りたくない。自分も会社に勤めて平社員から社長まで経験し、立場によって正義が異なり、それぞれに葛藤があることは分かっている。そんな現実社会での人のあり方をテーマに映画を作りたかった。

「それぞれの正義がぶつかり合う様を描きたい」と思った作品は、世界12カ国で公開され、日本映画監督協会新人監督賞にもノミネートされた。

文:大宮知信