事業譲渡は後継者問題が理由

家業は創業100年の建材会社。三上康雄さんはその3代目だった。映画への思いは胸にしまい込んだまま、33年間家業に専念。好業績の会社に育て上げた。「観たい映画がない。だったら自分で作ろう」と決意して4年後、M&Aが成立し、映画監督、プロデューサー、脚本家への道を踏み出した。一部のメディアに「映画作りのためにM&Aをしたと書かれたりしたけど、それは間違い」。後継者がいないことが最大の理由だった。

「中小企業は株主と一体だから、会社を買い取るにはすごいお金がいる。社長業を継ぐことは出来ても、株を持ってもらうのは大変。僕の株は60%、両親も20%ずつ持っているから、その株の相続の問題もあるし、これはもうM&Aするしか方法がない」と考えた。

買収する側は安物の会社は買わない。三上さんがキチッと業績を上げ、売れる会社にしたということだ。「M&Aはとてもすばらしいこと。会社の全株式を売るということは、だれでもできることではない。私は経営者的な感覚で、それなりの組織を持っている会社に売るのが一番いいと思った」

従業員は常時40人から50人いたが、会社を売却することは内緒にしていた。M&Aが成立する直前に告げた。従業員は「ビックリしていました。でも社員はもちろん、得意先にしても仕入れ先にしても、僕の責任でやることで問題がないように、迷惑を掛けない形にするにはこれしかないと・・・」。これしか方法がなかったという言葉を2度繰り返した。

それにしても思い切った決断だ。ビジネスパーソンとしては脂がのりきった50歳代、これからという時に好業績の会社を手放し、巨額の費用がかかる映画ビジネスに乗り出す。小心者の私などにはとても真似が出来ない。そういうと「やむにやまれぬ事情があった話で、後継者がいないということは決定的なことだから」という答えが返ってきた。

文:大宮知信