キャラクター文芸の要素を詰め込む

ー犬養だけではく、実在の人物が随分登場しますね。

手塚軍医は、慶應義塾の創始者・福沢諭吉と同時代に大阪の適塾に学んだ。実在の人物で、そのひ孫の手塚治虫は宝塚に生まれた。灘の造り酒屋の若旦那・嘉納(治五郎)は世界に向けて柔道界をつくった。本書の終章で、錬太郎に取材する大毎(大阪毎日新聞)記者の井上(靖)は作家として名を成す。本屋で一心不乱に立ち読みをする小憎たらしい中学生は後の司馬遼太郎をイメージした。

大阪を土壌にして過ぎていった人たちのネタを想像も交え、ふんだんに盛り込みたいと思った。キャラクター文芸に通じるのかもしれない。物語として歴史の中に生きた人々を楽しんでもらえたら、この上もなくうれしい。

次作は大阪の戦後復興を候補に

ー次の作品の予定は。

今度は戦後の大阪をテーマにしてみたい。日本の戦後復興というと、東京の焼け野原に次々にビルが建ち、前回東京五輪(昭和39年)で結実するといったイメージが定着している。大阪にはさほどそういうものがないので、チャンスかなと思っている。

例えば、大阪城近くの旧大阪砲兵工廠。戦後長らく放置され、復興の中でも忘れられかけた存在とされる。掘り起こしたい素材はいろいろある。

ー当面は、二足のワラジを目指すということでしょうか。

来年からいよいよ30代。会社の仕事ではもっと実力をつけ、実績を残していかなければならない段階。したがって仕事を優先する。もちろん、仕事の合間を縫って創作活動のやり繰りをしたい。その先のことは自分でも分からない。

◎坂上 泉さん(さかがみ・いずみ)

1990年、兵庫県生まれ。東京大学文学部日本史学研究室で近代史を専攻。2019年、『へぼ侍』(「明治大阪へぼ侍 西南戦役遊撃壮兵実記」を改題)で第26回松本清張賞(日本文学振興会主催)を受賞。会社員。

聞き手・文:M&A Online編集部  黒岡 博明