農産物の直売所は、生産農家の新たな出荷先というだけでなく、消費者にとっても新鮮な野菜を比較的安価に買える便利な店だ。一時その設立がブームになったが、いまや乱立気味で競争の時代に入った。茨城県石岡市にある「小さな流通研究所」代表の鎌田定宗(かまた・さだのり)さん(65)は流通コンサルタントの肩書きで、農産物直売所の開設から運営、直売所とレストランの複合施設、道の駅などに対するコンサルティング活動を展開している。また、行政や農業団体の依頼を受け、講演会、セミナーの講師として全国を飛び回りながら、農家レストランの企画や立上げについても個別の相談に応じている。

獣医からコンサルタントへ

会社勤めのサラリーマンはあまり足を運んだりはしないのかも知れないが、筆者はたまに農産物の直売所で買い物をする。農家が生産したものを直接出荷する店は、景気の波に左右されるだけでなく、天候次第で価格が大きく変化するなど世の中の動きを実感できる場所でもある。鎌田さんは、この産直・直売所のコンサルティング活動に取り組んでいる。

「農業を魅力あるものにし地域を活性化するために、農家自身が野菜や米、豚肉、牛肉をダイレクトに消費者に届ける手段はないだろうか」というのが発想の原点。40代前半のころ、直売所はあまりなかった時代に、自分がそういう場所を作ろうと考えた。

茨城県牛久市にある直売所とレストランの複合施設「ポケットファームどきどき」で鎌田さんに会った。昼食時、130席が子連れの母親や中高年の女性グループでほぼ満席。

「要するに付加価値を付けて売るということです。このレストランもそうです。生産者が作った野菜やお米で料理し、豚肉や牛肉をハム、ソーセージにして直接消費者に販売する」

鎌田さんのプロデュースで、2010年に「ポケットファームどきどき」牛久店をオープン。農産物直売所の隣りに食べ放題のレストランが併設されている。

親は石岡市で酪農を営んでいた。長男だったが、獣医科大学を出て獣医になり、農協の県段階の組織、茨城県経済連(現JA全農茨城本部)に入った。「サラリーマンですよ。畜産部門の課長をやったこともある」と鎌田さん。

20年近く養豚の衛生指導、経営指導に携わってきたが、養豚の現場で病気が発生し、安全性に疑問符が付く事件があった。獣医師として食の安全性という問題に直面。

「生産者も消費者も肉の安全性に関心がない。これって変な仕事だと思ったんです」

自分のやっていることに疑問を抱いた。生産者と消費者を守るにはどうすればいいか。

JA時代、レストランや直売所などの立ち上げに取り組んだノウハウの蓄積がある。「全国に仲間もいるし、巨大組織で働くより地域で志を持った人たちのお手伝いをした方がいいのでは」と、57歳で退職。自分の会社を立ち上げ、石岡市に事務所を構えた。(次回は6月4日掲載)

文:大宮知信