2.事業譲渡で転籍する従業員の有休の扱いは?

 M&Aでは、事業譲渡にともなって従業員の一部がまとまって別の会社に行くケースもあります。同じ「譲渡」でもより一般的な株式譲渡では、一言でいうと「株主が変わるが、従業員にとって勤めている会社はそのまま」ですが、事業譲渡では通常、その事業に関わる従業員が別の会社に転籍することになります。

 従業員が転籍する場合では、「未消化の有休はどうなるの?」とか「有給休暇の付与日数の計算のもととなる勤続年数は新入社員としてカウントされるの?」という疑問がわきます。ですが、基本的に転籍とは、新しい会社に籍を移すことですので、有給休暇も新しい会社でゼロからのスタートとなります。すなわち前の会社の未消化分や勤続年数も通算しません。

 しかし、それでは従業員が多大な不利益を被ることになりますので、別の対応を考えるべきであるという意見があります。現実的には「未消化の有給休暇は一定の範囲内で承継しても、勤続年数は通算しない」という方法を採っている会社が多いようです。

 一方、勤続年数も通算するとしている会社もあります。また場合によっては、有給休暇未消化分は転籍前の会社ですべて消化してもらうという考えもあるでしょう。

 転籍については、新たな雇用契約の内容について従業員の個別同意が不可欠ですので、従業員個人がどういう契約なら同意できるかによって変わります。有給休暇の扱いが理由で優秀な従業員に辞められるということも考えられますから、会社はあらかじめ有給休暇の扱いを十分検討し、それぞれの従業員に対して柔軟な対応も求められます。

3.M&Aで新会社ができ、その会社に勤める場合の有休の扱いは?

 複数の会社が経営統合し、新しい会社に勤めるようなケースです。その合併に関わる会社の従業員はいったんそれぞれの会社を退職し、合併後にできる新しい会社に新規に雇用されることになります。

 こうした場合は、有休休暇の扱いも含めて総合的に考えて労働条件が会社から示され、従業員は労働契約を結ぶことになります。単純に「合併して労働契約は合併後の会社に引き継がれる」と、出身企業ごとに労働契約がバラバラになってしまうでしょう。そうなると、事業もスムーズに進みません。   

 有休制度を法定より充実した内容で運用していた会社が統合するとなると、従業員には「有休日数が減ったうえに取得しにくくなった」という不満も出てきて当然です。すると統一するにしても、「統合前の会社のほうが条件はよく、変更は不利益にあたる!」と言い出す従業員も出てきかねません。

 その場合、会社としては、いわゆる「不利益変更」のルールに沿った対応をしていかざるを得ない状況もあります。有休の扱いに限ったことではありませんが、ここでいう「不利益変更」のルールとは、次のようなものです。

①会社が従業員の意見を無視して無理やり就業規則などを変えるのは、原則としては無効です。ただし、例外的に一定の要件を満たせば、全従業員と合意しなくても変更することができます。

②上記の「一定の要件」については、その変更の合理性が問われます。
 合理性の判断とは、
 ・不利益の程度
 ・変更の必要性
 ・変更後の内容の妥当性
 ・労働組合などとの交渉の状況
 ・その他の就業規則の変更に関連する事情 などを考慮していくことです。

 なお、就業規則を変更するにあたっては、従業員に意見聴取し、その内容を管轄の労働基準監督署に提出することも必要です。

監修:播 英明(社会保険労務士)/編集:M&A Online編集部