M&A税務(9)M&A時における役員借入金の債権譲渡とは

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役員から譲渡企業への貸付金の債権譲渡

 中小企業には役員借入金(役員から譲渡企業への貸付金)があるケースが多く見られます。この役員借入金の処理について、M&A時の実務的な対応を考えてみると、役員借入金を返済する他、債権放棄、ごくまれに擬似DES、債権譲渡による対応などが考えられます。そこで今回は債権譲渡の手法について解説します。

 なお、この債権譲渡を行う案件は、譲渡企業が大幅債務超過であり、返済見込みがない前提であることがほとんどです。この解説もその前提で行います。

©村木 良平

(1)譲渡企業の課税

 譲渡企業の役員借入金の金額は変動しないため、課税は生じません。

(2)債権譲渡の時価

 債権譲渡における債権の時価について定めた税法上の明確な規定は存在せず、実務上精緻な金額を算定するのは非常に困難といえます。過去の事例では譲渡企業が実質大幅債務超過である点や役員借入金の返済見込みがない点を考慮し、役員と譲受企業や譲受企業側の個人との交渉により、備忘価額(1円など)で譲渡することがありました。

 譲受企業が譲り受ける場合は譲受企業に受贈益課税、譲受企業側の個人が譲り受ける場合はその個人に贈与税の課税リスクがあるといえますが、税務上の問題が生じた事例は見当たらないように思います。

(3)役員の課税

 役員が債権(譲渡企業への貸付金)を備忘価額で譲渡すると、譲渡損が生じますが、この譲渡損は役員個人の所得金額の計算上、他の所得との通算等はできません。

(4)グループ法人税制の寄附金・受贈益

 譲渡企業株式を100%取得した譲受企業が備忘価額により債権を譲り受ければ、親会社(譲受企業)側の債権額と100%子会社(譲渡企業)側の債務額が一致しない形となります。

 債権譲渡後の税務上の各取扱いは次のとおりです。

(例)オーナーは譲受企業へ100%株式譲渡し、役員は譲渡企業向け債権100を譲受企業へ1で譲渡する。なお、この債権譲渡の対価1は、税務上適正額とする。

「中小企業M&A株式譲渡の税務」(きんざい)より抜粋

文:村木 良平(税理士)

村木 良平 (むらき・りょうへい)

税理士
1975年7月 大阪府生まれ
大阪府立北野高等学校、同志社大学経済学部卒業
株式会社日本M&Aセンターで12年間、M&A案件を主に税務・ストラクチャー構築面から関与。関与案件は千件以上にのぼる。MVP賞、社長賞等受賞。同社コーポレートアドバイザー部(西日本)の責任者を5年間経験後、2021年に独立。税理士会や各実務者向けの講師も数多く行う。
税理士業務、経理・財務・社会保険実務全般、上場準備、上場後の開示実務、J-SOX、国際税務含めた税務実務、上場企業同士の再編実務、PMI等を経験。

著書『中小企業M&A実務必携税務編』(きんざい、2016年・2018年)
*改訂版として『中小企業M&A株式譲渡の税務』を2021年10月に発刊

公式サイト https://murakitax.com


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