M&Aや事業承継の対象は法人というイメージがありますが、個人事業もまた譲渡の対象としたり、次世代経営者へと承継したりすべき価値ある存在です。

法人のオーナー社長とその後継者を対象にした事業承継税制に関しては、平成21年度(2009年度)税制改正による制度創設以降、度重なる改正や特例の新設により税制面での支援が強化されてきたところです。

そして、2019年度税制改正では個人事業を対象とした事業承継税制が創設されるに至りました。本稿では、10年間の時限措置として2019年1月からスタートした「個人版事業承継税制」の概要を解説したいと思います。

個人版事業承継税制の創設は医師や士業にとっても朗報

個人版事業承継税制は、個人事業者の後継者として経営承継円滑化法の認定を受けた者が、個人の事業用資産を贈与や相続などにより取得した場合に、その事業用資産にかかる贈与税や相続税の納税を一定の要件のもとで猶予する制度です。

その後、後継者の死亡などにより、納税猶予されている贈与税や相続税の納付が免除されることとなりますので、実質的に税負担がゼロになる制度ということができます。

法人を前提とした従来の事業承継税制も基本的には同様の制度ですが、個人版事業承継税制では対象となる資産が自社株式ではなく、個人事業主の事業用資産であるという点が異なります。

なお、個人事業主に関する要件としては、正規の簿記の原則に従って青色申告をしている事業者であることが求められます。業種として不動産貸付事業などは除外されていますが、医業や士業の事業承継にも適用できる点は朗報といえるかもしれません。

多様な事業用資産に対応

個人版事業承継税制の特徴として、法人版の事業承継税制における特例と同様に納税猶予割合が100%となっている点が挙げられます。つまり、贈与税や相続税の全額が納税猶予されます。

また、時限措置として2019年1月1日から2028年12月31日の間に行われる相続や贈与が対象となっている点には留意が必要です。前提として、2019年度から5年以内にあらかじめ承継計画を提出する必要がありますので、適切なスケジュールに従って準備することが求められます。

個人版事業承継税制に特有の特徴としては対象資産の多様性が挙げられます。土地および建物、機械、器具備品、車両および運搬具、無形償却資産など幅広い資産が対象となります。

土地については面積400平方メートルまで、建物については床面積800平方メートルまでという制限もありますが、建設業におけるパワーショベルなどの建機、医業における診療機器など高額な減価償却資産がカバーされる点では個人事業主および後継者にとってメリットが大きいといえます。また、乳牛や果樹などの生物も対象となることから酪農家や農家にとっても利点があります。