M&A税務(1)経営資源集約化税制(準備金制度)

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経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金制度)

M&Aで中小企業が他法人の株式を取得した場合、株式取得価額の70%を損金算入できる制度があります。生産性向上を目指す中小企業が計画に基づいてM&Aを実施した際、税制で優遇を受けられる制度で、個人事業主は対象外となります。

M&A実務に携わる方々にとって有用な情報であることから、今回は「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金制度)」について説明します。

経営資源集約化税制とは

「中小企業の経営資源の集約化に資する税制(経営資源集約化税制)」とは、経営力向上計画に基づいてM&Aを実施した場合、次の3つの税制措置を活用することができる制度です。

① 設備投資減税(中小企業経営強化税制)
② 雇用確保を促す税制(所得拡大促進税制)
③ 準備金の積立(中小企業事業再編投資損失準備金)

中小企業事業再編投資損失準備金とは

制度の概要とメリット

中小企業者*が令和3年8月2日から令和6年3月末までに経営力向上計画の認定を受け、その計画に従い他の法人の取得価額10億円以下の株式を取得し事業年度終了の日まで引き続き保有している場合は、その株式の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失引当金として積み立てたときは、その積み立てた金額を損金算入できます(措置法55の2)。*資本金1億円以下の法人(一定の法人除く)

この準備金は、次の場合などには取り崩し益金算入しますので、課税の繰延べ措置といえます。

① 取得した株式の全部または一部を有しなくなった場合(全額または相当分を取崩し)
② 積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年経過後の事業年度から5年間で均等額を取り崩す

(例)株式取得価額が1,000で準備金700を積み立てた場合

中小企業M&A株式譲渡の税務(きんざい)から一部抜粋

譲受企業としては、大きな利益(所得)が見込まれる事業年度で、M&Aにより株式取得を行えば、損金を作り出すことで所得を圧縮できる効果が期待できます。

会計処理(仕訳例)

a.M&A実施事業年度(上記図ではR5.3期)

以下、①又は②によります

①準備金方式 ※申告調整なし
  事業再編投資損失 700/ 中小企業事業再編投資損失準備金 700

②剰余金処分 ※別表4で減算調整
  繰越利益剰余金  700/ 中小企業事業再編投資損失準備金 700

b.5年の据置事業年度(上記図ではR6.3期~R10.3期)

  仕訳なし

c.M&A実施後6年目~10年目(上記図ではR11.3期~R15.3期)

以下、①又は②によります

①準備金方式 ※申告調整なし
  中小企業事業再編投資損失準備金 140/ 事業再編投資損失戻入益 140

②剰余金処分 ※別表4で加算調整
  中小企業事業再編投資損失準備金 140/ 繰越利益剰余金 140

制度活用における注意点

以下、実務でポイントとなる点を記載します。

・経営力向上計画の提出先は、業種毎に、地域別又は各都道府県別に定められています。譲受側の管轄の提出先に提出します。
・経営力向上計画の策定の際、認定経営革新等支援機関から策定支援を受けることは任意。
・株式譲渡スキームに限って適用。
・グループ内、親族内の譲渡は適用不可。
・発行済株式数または総額50%以上の譲渡案件に適用。
・取得価額10億円以下というのは、1回1回の株式取得にかかる制限規定となり、一事業年度やトータルでの回数や頻度の制限なし。
・取得価額10億円超の場合には、適用不可。
・取得価額10億円の取得価額には、仲介会社等への成功報酬など株式の取得価額に含めた金額も含まれます。
・対象となる譲渡企業は、従業員数が2000人以下の法人が該当し、資本金が1億超となる場合等でも対象(中小企業等経営強化法第2条第6項に規定する特定事業者等に該当すれば適用可能)。
・認定日、最終契約締結日の順番でなければ適用不可。
・最終契約締結日、認定日、譲渡日の順番では適用不可。
・DDを全く行っていない場合や、財務・税務DDと法務DDのいずれかを全く行っていない場合は、適用不可。
・100%株式取得し、準備金100を計上すれば100損金算入、翌年に20%譲渡すれば20益金算入、5年間にわたる益金算入は残り80を5年に分けて行う。
・株式取得を実行した後の報告は譲渡日後すみやかに行う形となり、特に期限は設けられていませんが、税務申告書提出時に「確認書の写し」の添付が必要となるため、その「確認書」の発行期間(報告後、概ね30日間)を考慮して報告しなければなりません。

なお、実務においては、顧問税理士等の専門家にご相談いただき、ご対応されることをお勧めします。意見にあたる部分は著者個人の見解です。

文:村木 良平(税理士)

参考URL:
中小企業庁:経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について

村木 良平 (むらき・りょうへい)

税理士
1975年7月 大阪府生まれ
大阪府立北野高等学校、同志社大学経済学部卒業
株式会社日本M&Aセンター(東証1部)で12年間、M&A案件を主に税務・ストラクチャー構築面から関与。関与案件は千件以上にのぼる。MVP賞、社長賞等受賞。同社コーポレートアドバイザー部(西日本)の責任者を5年間経験後、2021年に独立。税理士会や各実務者向けの講師も数多く行う。
税理士業務、経理・財務・社会保険実務全般、上場準備、上場後の開示実務、J-SOX、国際税務含めた税務実務、上場企業同士の再編実務、PMI等を経験。

著書『中小企業M&A実務必携税務編』(きんざい、2016年・2018年)
*改訂版として『中小企業M&A株式譲渡の税務』を2021年10月に発刊

公式サイト https://murakitax.com


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