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【2月M&Aサマリー】95件、13年ぶりの高水準|ルネサスが英半導体を6000億円超で買収
2021年2月のM&A件数(適時開示)は前年同月を14件上回る95件と、2月として2008年(95件)と並ぶ13年ぶりの高水準を記録した。年明け1月は53件で前年同月比21件の大幅減だったが、急反転した。一方、取引金額は約1兆1700億円と2008年2月の3倍の規模で、この間の最高額となった。
スシローグローバルホールディングス<3563>が、吉野家ホールディングス<9861>から京樽を買収すると発表しました。4月1日に完全子会社化して「FOOD & LIFE COMPANIES」と社名を変更し、テイクアウトなどの多様なニーズに応えるとしています。
この発表を市場は好感しています。株価は2月26日の終値3,985円から3月1日に4,250円まで6.6%上昇しました。新型コロナウイルスの感染拡大によって消費者のライフスタイルが変化し、テイクアウト・デリバリーなど多様なニーズが顕在化しました。外食一辺倒だったスシローが、テイクアウトを主力事業の一つとすることを好意的に見ているものと考えられます。
しかし、最近の京樽は都市型の回転寿司店「三崎港」の出店に注力していました。業績の牽引していたのも、回転寿司店の新規出店によるものです。スシローと比較すると利益率も低く、当面は足を引っ張る可能性がありそうです。
この記事では以下の情報が得られます。
・京樽とスシローの業績推移
・スシローが京樽を買収した理由
吉野家ホールディングスの決算発表をもとに、京樽の業績を見てみます。京樽は2020年2月末時点で335店舗展開しています。およそ130店舗が回転ずしの「三崎港」です。持ち帰りずしが振るわなかった京樽は、三崎港の出店で堅調な業績を維持していました。2~4%の幅で増収となっていますが、出店費用が嵩んで利益は出にくい状態になっています。
■京樽の業績推移
2017年2月期 | 2018年2月期 | 2019年2月期 | 2020年2月期 | |
売上高 | 25,682百万円 | 26,695百万円 | 27,323百万円 | 28,544百万円 |
増減 | 2.80% | 3.90% | 2.40% | 4.5% |
セグメント利益 | 72百万円 | 316百万円 | 162百万円 | 457百万円 |
増減率 | -74.90% | 333.60% | -48.60% | 181.60% |
利益率 | 0.28% | 1.18% | 0.59% | 1.60% |
店舗数 | 329店 | 330店 | 333店 | 335店 |
1店舗あたり売上高 | 78.1百万円 | 80.9百万円 | 82.1百万円 | 85.2百万円 |
※決算短信より筆者作成
利益は1%台に留まっています。「三崎港」の出店によって1店舗当たりの売上は7,000万円台から8,500万円まで上昇しました。京樽の回転寿司店は都市型で小型のものが多く、売上は小さい傾向にあります。京樽の数字は郊外型の大型店を主軸とするスシローと比較すると、その弱さが際立ちます。
■スシローの業績推移
2017年9月期 | 2018年9月期 | 2019年9月期 | 2020年9月期 | |
売上高 | 156,402百万円 | 174,883百万円 | 199,088百万円 | 204,957百万円 |
増減 | 5.90% | 11.80% | 13.80% | 2.90% |
セグメント利益 | 6,940百万円 | 7,975百万円 | 9,523百万円 | 6,488百万円 |
増減率 | 114.60% | 14.90% | 19.40% | -31.90% |
利益率 | 4.4% | 4.6% | 4.8% | 3.2% |
店舗数 | 484店 | 525店 | 566店 | 624店 |
1店舗あたり売上高 | 323.1百万円 | 333.1百万円 | 351.7百万円 | 328.5百万円 |
※決算短信より筆者作成
スシローはコロナ禍でも1店舗当たり3億3,000万円稼いでいます。利益率は4%台後半から3%まで落としましたが、それでも京樽を上回っています。京樽を買収することにより、1店舗当たりの売上高は2億4,000万円、利益率は2%台前半まで落ち込む計算です。
では新常態でテイクアウト需要が活発になり、京樽の業績が良くなったかというと、そうでもありません。
回転寿司店への依存度を高めていた京樽は、緊急事態宣言や外出自粛要請の影響を強く受けました。4月売上が前年比40%となり、コロナの影響が落ち着き始めた9月も80%を回復していません。
■吉野家・はなまる・京樽の売上推移
スシローの4月の売上は前年比58%、9月は102.2%でした。「三崎港」への依存度を高めていた京樽はテイクアウト需要をキャッチしきれず、都市型の店舗展開だったためにリモートワークなどの外出自粛の影響を受けたのです。
小僧寿しのテイクアウト売上は、4月が107.6%、9月が105.8%でした。持ち帰り需要が膨らんで昨年を越えているものの、大幅に好転しているわけでもありません。京樽の持ち帰り事業も同様のものだったと考えられます。
今回の買収によって目先の業績が良くなる見込みは極めて少ないといえます。
長期的に見れば仕入先を統合して価格交渉力を上げ、原価率を落とすことができるでしょう。京樽はスシローが弱かった首都圏の都市型店舗を多数展開しているため、不採算店をスシローに業態転換できるメリットもあります。スシローは大衆寿司居酒屋「杉玉」を市場投入しており、会社員の“飲み”需要が復活すれば「三崎港」を居酒屋にする未来も視野に入ります。
いずれにしろ、都市型の回転寿司店を130店舗以上持っていることは、事業の多角化を進めていたスシローにとって強い味方になることは間違いありません。
個人投資家にとっては京樽の優待が受けられることで、株を保有するメリットが高まりました。外食企業は優待目的で保有するケースが多く、優待の拡充による株価上昇に期待ができます。
そして何より、スシローの中期経営計画に沿った計画的な買収であることは間違いありません。スシローは連結売上高2,400億円、年成長率10%を目指しています。そのための戦略骨子として、新業態による寿司周辺市場の開拓がありました。郊外型に軸足を置いた経営スタイルから、都市型出店や居酒屋など、多様なニーズを拾うものです。業績への貢献度は低いとはいえ、事業の分散という側面でみればテイクアウトも重要な要素です。
今回の買収で気になるのは、京樽をいくらで買収し、どのくらいののれんが積み上がったかです。スシローは過去に投資ファンド「ペルミラ・アドバイザーズ」に買収されており、現時点でのれんを300億円計上しています。総資産の12.8%です。
■スシロー、くら寿司の営業利益およびROAの比較
スシロー(2019年9月期) | くら寿司(2019年10月期) | |
ROA | 10.7% | 8.0% |
営業利益 | 14,546百万円 | 5,475百万円 |
総資産 | 136,349百万円 | 68,216百万円 |
※決算短信より筆者作成
利益率が高いスシローはのれんが積まれているにも関わらず、競合のくら寿司と比べてROAが高いという驚異的な好調ぶりを見せていました。
それが今回の買収によって鈍化することがないか懸念するポイントの1つとなります。
文:麦とホップ@ビールを飲む理由
しがないサラリーマンが30代で飲食店オーナーを目指しながら、日々精進するためのブログ「ビールを飲む理由」を書いています。サービス、飲食、フード、不動産にまつわる情報を書き込んでいます。飲食店、宿泊施設、民泊、結婚式場の経営者やオーナー、それを目指す人、サービス業に従事している人、就職を考えている人に有益な情報を届けるためのブログです。やがて、そうした人たちの交流の場になれば最高です。
ブログはこちら 「ビールを飲む理由」 http://foodbusiness.hatenablog.jp/
2021年2月のM&A件数(適時開示)は前年同月を14件上回る95件と、2月として2008年(95件)と並ぶ13年ぶりの高水準を記録した。年明け1月は53件で前年同月比21件の大幅減だったが、急反転した。一方、取引金額は約1兆1700億円と2008年2月の3倍の規模で、この間の最高額となった。